G-CSFによって動員された造血幹細胞のPKA-CREB-p300経路の活性化とPAI-1発現の低下、さらにFurin活性化とMT1-MMP発現上昇が誘導されることを見だした。さらに、PKAやp300の阻害剤によりG-CSFの効果が打ち消されることを確認し、遊走促進因子によるPAI-1発現の低下と遊走能の亢進がPKA-CREB-p300経路依存的であることを証明した。TGF-bを含む培地に、G-CSFを低濃度から高濃度に振り分けて添加し、ニッチにおいてTGF-bによって運動能が抑制されている幹細胞に遊走因子が作用し運動能を付与するに至る状況を再現した。SmadとCREBに結合するp300の割合の変化とMT1-MMP発現や遊走能の相関をフローサイトメトリーやPLA免疫染色法により解析し、遊走促進因子がp300をSmadから奪ってCREBへ結合させることによって、TGF-bによる運動能の抑制を解除することを証明した。これらの結果からTGF-b-Smad依存的なPAI-1の転写活性にはp300タンパク質との結合が必要であるが、p300はG-CSFによって誘導されるPKA依存的なCREBによる転写活性においても要求される。すなわち、G-CSFによるPKAの活性化は、SmadとCREBで競合的にp300を奪い合うことになり、PKA優位の場合にはSmad依存的な転写活性は抑制される。このことがTGF-b-PAI-1による静止状態を解除するメカニズムであることを証明できた。
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