平面細胞極性(PCP)は、無脊椎動物からヒトに到るまで広く保存され、多くの組織で見られる「細胞の方向性」の情報である。分泌性シグナル蛋白質Wntは平面細胞極性を方向づけることが示されているが、その作用機構は不明である。有力な仮説として、Wntの濃度勾配が存在し、個々の細胞がそこから極性の情報を読み取る可能性が考えられているものの、そもそも濃度勾配が存在するのか否か、という根幹において情報が欠如している。その大きな理由として、これら分泌性シグナル蛋白質の空間的分布とその制御に関する理解が不十分なことがある。本研究はWnt蛋白質を可視化し、その局在と平面細胞極性の関係性を明らかにすることで、WntがどのようにしてPCP制御するかを分子・細胞レベルで理解することを目指す。 Wnt11とコアPCP因子の局在性を同時に解析することは本研究の課題を遂行する上で極めて重要である。これまで、コアPCP因子の可視化には主にGFP-Pk3を用いてきた。一方、Wnt11-EGFPはGFP-Pk3を極性化させる活性を持つものの、同一の蛍光タンパク質を用いているため、同時にそれらの局在を解析することは不可能だった。この点を解決すべく、他の蛍光タンパク質を用いてWnt11を可視化することを検討した。この結果、青色蛍光タンパク質の一種を用いることで、GFP-Pk3を極性化させる十分な活性をもつコンストラクトの作成に成功した。またWntシグナルにより、コアPCP因子の一つであるVangl2のリン酸化が促進されることが報告されているが、Vangl2のリン酸化状態を含んだ特定のコアPCP因子の組み合わせがWnt11の足場形成に関わることが示唆された。コアPCP因子によるWnt11の局在性の制御の一端が明らかになり、本研究課題の目標は概ね達成されたと考えている。
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