酸化的リン酸化や解糖系といった、細胞内でエネルギーを作る経路は、細胞内の代謝状態と密接に関連し合っている。細胞の状態によって必要となる栄養素や効率のよいATP合成方法が変わるからだと言われている。従来のATP計測手法では細胞内ATP濃度を一細胞レベルで正確に定量計測することが困難であった。我々は、これまで独自に開発してきた、細胞内ATP濃度をレシオメトリックな蛍光変化で定量計測する単一蛍光色素型の蛍光ATPプローブ”QUEEN”を用いて、細胞の培養状態や分化状況に応じて代謝状態がどのように変化をするのかを検証した。われわれが行ったこれまでの解析で、細胞内の代謝状態の決定は単にランダムに決まるのではなく、他の細胞との関係性の中で決定されることが示唆されていた。だが、細胞の代謝状態は、長い目で見れば変化しているが、分裂から分裂までを1世代として考えると、1世代の間ではさほど変化しない。したがって私は、同一の環境において培養された細胞同士の代謝状態が近いことに対して、環境による影響と時間による影響の二つの仮説を立てた。この二つについて切り分けを行うべく、異なる蛍光タンパク質を発現させた細胞の共培養系において、系統ごとにATP濃度の解析を行った。二つの異なる系統の同種の細胞のATP濃度を比較したところ、異なる系統であっても細胞の代謝状態としては非常に近いことがわかった。このことは、細胞の代謝状態の決定機構に、他の系統の細胞の存在が影響を及ぼしているという仮説を支持する。また、ストレス下にある細胞の細胞内のタンパク質の凝集状態とエネルギー状態についても観察を行った。代謝状態を計測することは、細胞内で起きているさまざまな反応や遺伝子発現の調節のメカニズム解明に今後も役立つと考えられる
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