研究課題/領域番号 |
18K14725
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
峰岸 かつら 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (60568814)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 左右軸 / mRNAの分解 / 機械的刺激 / RNA結合タンパク質 / Cerl2 / ノード / 左右非対称性 / メカノセンサー |
研究実績の概要 |
細胞に加わる機械的刺激は、どのようにして細胞内の遺伝子の発現、翻訳などを制御しているのだろうか。私たちは哺乳類の左右軸決定機構の解明を通して、細胞が水流に応答する機構について新たなモデルを提唱することを目指している。
受精後8日目のマウス胚において凹んだノードとよばれる組織ができる。マウスのノードには動く繊毛、動かない繊毛の2種類が存在している。動く繊毛はノードの中心部の細胞群に存在し、時計まわりに回転することで、ノード内に左向きの水流をつくりだす。一方、動かない繊毛はノードの脇に位置する細胞(クラウンセル)群に存在し、繊毛に局在するカルシウムチャネルPkd2を介して水流を感知する機能を持っている。水流が起こると、最初に左側のクラウンセル特異的にNodalのアンタゴニストであるCerl2 (Cerberus-like protein 2)と呼ばれる遺伝子のmRNAが減衰していく。しかし、そのメカニズムは不明である。私達は、この減衰が転写後のCerl2遺伝子の3'-UTRを介した mRNAの分解であることに着目して本研究を計画した。
私達はds (destabilized) VenusのORFにCerl2 の3'-UTRの配列をつなげた遺伝子をクラウンセルに特異的に発現させたトランスジェニック(Tg)マウス胚(dsVesus-3'-UTR)を作製した。このTg胚のクラウンセルでは左右非対称な蛍光が観察された。さらに、予備実験において、3'-UTRの約200bp配列内にmRNAを分解するのに必要な配列が含まれていることを明らかにした。本研究において、私たちは3’-UTR内の水流に応答する最小配列を特定し、その配列に結合する「RNA結合タンパク」あるいは「microRNA」を同定することで、水流依存的にCerl2 のmRNAが分解される機構を明らかにすることを目標にしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
dsVenus-3'-UTRのTgの実験系を用いて、iv変異マウス胚(ノード流が消失する変異マウス)および、カルシウムチャネルを欠損するPkd2-/-においては、Venusのシグナルの左右差が消失することがわかった(左=右)。さらに、iv変異マウス胚に対して人工的に右向きの水流をかけた場合、Venusのシグナルの左右差が逆になった。これらの結果からCerl2 3'-UTRがPkd2を介して水流に応答することを明らかにした。
以前の予備実験(Tg胚を用いたマッピング)において、水流に応答するのに3’-UTR内の約200塩基の配列が関与していることが示唆されていた。今回、その約200塩基を欠失した変異マウスを製作した。その変異胚を用いてCerl2のWhole-mount in situ hybridization (WISH)を行うと見事にCerl2 mRNAの左右非対称性が失われていた。
また、Cerl2 3'-UTRに結合する有力な候補因子(RNA結合タンパク質)であるBicc1をみつけ、Tg (dsVesus-3'-UTR)を用いてBicc1変異マウス胚でのクラウンセルでの蛍光パターンを観察したところ、bilaterally equalになっていた。さらに、RNA-IP(RNA免疫沈降)よってBicc1とCerl2 3’UTRは結合することを明らかにした。さらに、マッピングで明らかになった200塩基を欠損させた場合、Cerl2 3’UTRはBicc1と結合しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今までの結果からCerl2 mRNAの分解にBicc1が関与している可能性が高いと考えられる。ショウジョウバエにおいて、Bicc1がCCR4-NOT複合体のCnot3に結合することが報告されている。加えて、近年、CNOT3がかなりの種類のmRNAの3’UTRに作用してそのmRNAの分解を制御していることが知られている。よって、CNOT3がCerl2 mRNAの3’ UTRにBicc1を介して会合し、CCR4-NOTをリクルートすることでCerl2 mRNAを分解に導いている可能性を検証する。
これらの研究により、水流依存的にCerl2のmRNAが分解される機構を明らかにする。 また、ノードにおいて水流を感知するセンサーとして働いているPkd2は、腎臓上皮細胞においても同様にセンサーとして働くことが報告されている。さらに、Pkd2だけではなく、腎臓で機能している因子がノードにおいても発現していることが明らかになってきた。よって、本研究は左右軸決定機構の理解にとどまらず、一般的な原理・機構へと発展する可能性を秘めている。
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