哺乳類の左右非対称な形態形成は、初期胚(マウス受精後7.5日胚)のノードと呼ばれる組織において繊毛が回転することで生じる「左向きの水流」がトリガーとなる。この左向きの水流という刺激がどのようにして細胞へと伝達されるかは不明であった。 もっとも早い発生段階での左右非対称な発現を示す遺伝子はCerl2と呼ばれる遺伝子であり、ノードの右側特異的に強く発現がみられる。この左右非対称なCerl2の発現は、水流刺激がカチオンチャネルPkd2依存的にCerl2のmRNAの分解を促進する現象が胚の左側特異的に強く起こることによって生じる。我々は、この現象に哺乳類で保存されているCerl2の3'-UTR内の近位部200塩基の領域が必要不可欠なことを明らかにした。加えて、ノードで特異的に発現するRNA結合タンパク質であるBicc1が、この200塩基の領域に結合することを証明した。 Bicc1がCerl2 3'-UTR 近位部200塩基のどの部位に結合しているかを明らかにするために、共同研究者によって、ランダムな20merのRNAライブラリーを用いたRNA Bind-n-Seq(RBNS)解析が行われた。その結果、Bicc1はCerl2 3'-UTR 近位部200塩基のGACRとYGAC配列を優先的に認識することを示した。このことは、Bicc1がCerl2 3'-UTRの近位部に位置する保存されたGACGUGACモチーフに特異的に結合することを示唆した。さらに、我々はBicc1がCCR4-NOT複合体をCerl2 mRNAにリクルートすることでmRNAの分解を促進することを示した。 本研究において、水流刺激(機械刺激)が遺伝子発現を制御するメカニズムの新たなモデルを提唱することができた。
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