アデノシン三リン酸(ATP)はエネルギー物質としてだけでなく、神経伝達物質としての機能が知られる。植物の細胞外ATP受容体DORN1は哺乳類と異なり、膜に存在するキナーゼ様受容体の一つであり、エンドサイトーシスで細胞膜の局在が変化することがわかっている。しかし植物の細胞外ATPの働きと受容体DORN1の作用機序については謎が多い。細胞外ATPは、根の重力屈性をコントロールすること、DORN1は、植物の細胞壁と細胞膜の接着に関係することが予想された。本研究ではDORN1と根の屈性の関係を明らかにすることを目的とした。その結果、Arabidopsis thaliana、Brassica rapa、トウモロコシを使った電子スピン共鳴装置で、細胞壁の構成に関わるとされる活性酸素の一種のヒドロキシルラジカルが(1)細胞外からのATPで根から生成され、(2)細胞外からのADPによっても生成されること、(3)DORN1欠損株dorn1-3からもATPでヒドロキシルラジカルが生成されることが分かった。これまでにDORN1への細胞外ATPの結合で、スーパーオキシドアニオンが情報伝達物質として利用されることが報告されているが、本研究で細胞外にもDORN1を介さない活性酸素種の生成メカニズムの存在が示された。本結果は国内シンポジウムで報告し、新たな知見を加えて2023年6月の国際会議で発表予定である。 また、細胞外ATPが植物の根のエンドサイトーシスを撹乱することが知られる。エンドサイトーシスと植物の屈性に伴う成長についてさらに研究するために試薬の溶媒であるエタノールよるエンドサイトーシスへの影響を調べ、エタノールが根の細胞骨格やエンドサイトーシスを撹乱すること、無酸素状態で植物の根がエタノールを生産することを明らかにし、論文で報告した。
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