研究課題/領域番号 |
18K14735
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
栗田 悠子 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00796518)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 栄養塩 / 樹木 / 季節 / 転流 |
研究実績の概要 |
落葉木本植物では落葉前に葉から様々な栄養素を回収し、冬期の貯蔵を経て春に再転流することで、貴重な栄養素を効率的に利用していることが知られている。多量必須栄養素であるリンの春の成長時における冬期貯蔵リンの利用動態とその重要性は明らかにするために、本研究では落葉木本植物ポプラの冬期のリンの貯蔵分子であるイノシトール6リン酸(IP6)という有機リン酸化合物を分解する酵素に着目し、酵素の同定と、IP6分解酵素の発現抑制形質転換体、すなわち貯蔵リン利用できない樹木の作出をとおして、開芽時の個体内の貯蔵リンの成長への寄与と季節的なリン循環の重要性を明らかにする。 当該年度において、冬期貯蔵リンが分解・再利用されると考えられる春に働くIP6分解酵素の候補を絞り込むために、野外と実験室内で四季を再現した短縮周年系のポプラを用いて継時的なRNA-seq解析を行い、野外・実験室内系で共通した季節的な発現変動を示す遺伝子群を同定した。IP6は種子のリン貯蔵形態であることが知られており、シロイヌナズナなどにおいてIP6分解酵素が同定されている。これらの既知のIP6分解酵素との配列比較から得たポプラにおけるホモログ遺伝子のうち、RNA-seq解析の結果から、開芽前に野外・実験室内ポプラにおいて発現が上がる遺伝子群を抽出しIP6分解酵素候補遺伝子を得た。これらの候補遺伝子についてクローニングを進め、そのタンパク質の機能解析と形質転換体作成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、野外・実験室内短縮周年系のRNA-seq解析が完了し、シロイヌナズナなどにおける既知のIP6分解酵素遺伝子との配列比較から、ポプラ(Populus alba)におけるIP6分解酵素遺伝子候補を得て、タンパク質機能同定や発現抑制形質転換体作成に向けたクローニングを進めた。野外・実験室内短縮周年系のRNA-seq解析から得られた季節発現変動遺伝子のデータは、実験室内短縮周年系が遺伝子発現レベルでどの程度野外を再現できているのかを明らかにし、本研究が着目しているリン転流以外の樹木の季節現象の研究についても応用できる可能性を示した。 一方で今後の研究を進めるにあたり、当初計画していたPopulus albaは形質転換体の作成効率がやや低いため、より形質転換体作成効率のよいPopulus tremula L.とP. tremuloides Michxの交雑種のクローンT89系統を用いることとし計画を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の成果によりポプラにおいて春に発現の上昇するIP6分解酵素遺伝子候補が見出された。今後は候補遺伝子について短期落葉-開芽系のポプラを用いた下記の実験を行う。 ① 冬期のリン貯蔵分子であるIP6分解酵素の機能同定:P6分解酵素をベンサミアナタバコを用いたタンパク質合成系で合成し、in vitroでIP6分解能の測定を行う。 ② IP6分解酵素発現抑制形質転換体の作出:①と並行して、IP6分解酵素候補遺伝子について、CRISPR-Cas9による発現抑制形質転換体の作成を行う。得られた形質転換体について、実験室内短期落葉-開芽系を用いて開芽時における候補遺伝子の発現量・タンパク質量・IP6濃度の測定を行い、効率よく発現が抑制された形質転換個体を選抜し、挿木により必要個体数確保して以下の実験に用いる。 ③ 開芽時の成長における貯蔵リン・土壌リンの寄与の評価:②で得られたIP6分解酵素発現抑制形質転換体を用いて、開芽時の成長における貯蔵リンの重要性を評価する。野生型のポプラと形質転換体それぞれを、実験室内系において培養し、休眠期から開芽時にかけてIP6・無機リン酸・有機リン酸の測定と、開芽後の新しい枝葉の成長量を定量する。これにより算出された貯蔵リン由来の利用可能なリン量の減少が、開芽後の成長にどのような影響を与えるのかを明らかにする。また開芽時における土壌のリン条件を調整することで、リン充分条件時とリン欠乏時における野生型・形質転換体ポプラの成長と個体内リン濃度の比較を行う。 ④ RNA-Seqによる個体内リン応答変化の解析:実験室内系を用いてリン十分条件・欠乏条件下で野生型と形質転換体ポプラを培養し、開芽時の各組織のRNAseq解析を行うことで、樹木が貯蔵リンに依存できなくなった場合にどのように応答し、成長を補うのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるにあたり、当初計画していたPopulus albaは形質転換体の作成効率がやや低いため、より形質転換体作成効率のよいPopulus tremula L.とP. tremuloides Michxの交雑種のクローンT89系統を用いて形質転換体作成を行うこととなった。新たにT89系統を実験で使用できる株数まで培養し実験を行うにあたり、当該年度内の実験完了が困難であったため、必要な予算分の次年度への繰り越しを行なった。当該助成金は翌年度分の助成金と合わせ、上記のT89を用いた形質転換体の作成と、作成した形質転換体の春の貯蔵リン転流時のリン利用効率への影響の評価、タンパク質機能同定などの実験に用いる。
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