研究課題/領域番号 |
18K14745
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
安岡 有理 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 研究員 (70724954)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 刺胞動物 / 変態 / バイオミネラリゼーション / 発生 / 進化 / 地球温暖化 / 海洋酸性化 |
研究実績の概要 |
【温度やpHによる石灰化への影響の評価】ウスエダミドリイシサンゴ(Acropora tenuis)のプラヌラ幼生を沖縄科学技術大学院大学マリンゲノミックスユニット(西辻光希博士、佐藤矩行博士)の協力により入手し、ポリプへ変態させたのちに様々な条件で飼育して、石灰化への影響を評価した。温度条件を23℃、26℃、29℃、32℃にそれぞれ変更して石灰化の進行具合を比較したところ、どの温度でもポリプは問題なく石灰化を開始した。さらにpHを7.15と7.8で比較したところ、こちらも問題なく石灰化が起きていた。これらの結果は、地球温暖化や海洋酸性化といった現代人類が直面している地球環境問題に対して、少なくともウスエダミドリイシサンゴの幼生は着底して石灰化を始められるだけの頑健性を備えているということが判明した。 【ポリプ観察方法の改善】ガラスベースの24-well plateの各wellに、プラヌラ幼生1匹を25 uLの海水とともに入れ、そこに25 uLの40 uM HYM248(海水)を加えて変態を誘導することで、効率よくガラス面にポリプを着底させることに成功した。着底3時間後に石灰化観察用のカルセイン溶液(終濃度20 uM)を加えて1mLとし、石灰化の過程を蛍光顕微鏡で観察したところ、効率よく写真撮影ができた。全てのwellで同一条件で着底・石灰化させることができる上、wellの番号で個体識別も容易にできるので、従来の35 mmガラスベースディッシュを使う方法よりも定量的な比較解析に適した手法が開発できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、沖縄へ渡航して実験を行うことが困難となったため、顕微注入実験による遺伝子機能解析実験を今年度は実施できなかった。その分、幼生を入手して温度やpHが石灰化に与える影響を調べることができたのは大きな収穫だった。ガラスベースプレートを活用し、1wellごとにポリプを着底させる手法は有効で、今後に活かせる技術的進歩だった。 一方で、前年度行ったRNA-seqデータの解析が進んでおらず、PKSの機能解析も進まなかった。これらは共同研究で進めることを考えていたものの、今年度は解析を依頼できるだけの余裕がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの感染状況は好転する気配もないので、沖縄での実験は本年度もあきらめざるを得ない。 温度やpHなどの環境ストレスに対するプラヌラ幼生・ポリプ頑健性について、論文発表を行う。 RNA-seqデータの解析を進め、初期ポリプの成長過程において顕著に発現が増減する遺伝子を割り出し、既知の石灰化関連遺伝子のプロファイルと比較することで石灰化関連遺伝子の更なる同定を目指す。 サンゴPKS遺伝子について、脊椎動物PKS遺伝子と機能的互換性があるかどうかをメダカのPKS mutant(耳石形成不全)に対するレスキュー実験で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大によって、沖縄への移動が必要な実験を実施することができず、研究を予定通り進めることができなかった。したがって、出張実験のために組んでいた予算を見直し、研究期間を延長することとした。
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