研究課題
概日リズムには環境温度に関わらず周期が約24時間で安定に保たれる「温度補償性」が備わっている。本研究では、ショウショウバエにおいて時計遺伝子PERに対する翻訳制御因子のTYFとLSM12の欠損系統が概日リズム温度補償性に異常を示すことをベースとし、その原因の解明から温度補償性を解き明かすことを試みている。本年度は、PERタンパク質を構成するアミノ酸は同じであるが、塩基配列のみを変化させた遺伝子組換え系統(per-opt)を用い、脳内時計細胞におけるPERタンパク質の量的変化を抗体染色により調べた。その結果、予測した通り、PERタンパク質の量的変化が生じていた。これは昨年度までに得られていた行動実験の結果と一致していた。つまり、温度補償性を生み出す機構の一つに、環境温度変化に対応したPERの翻訳速度調節機構が深く関与していることを強く示唆している。次に、この環境温度変化に対応したPERの翻訳速度調節機構の分子機構を解明すべく、温度変化によるPERの翻訳因子であるTYFとperのmRNAの結合力に着目した。RNA結合タンパク質免疫沈降法を高温時と低温時の2条件で実施した結果、両条件でTYFとperのmRNAの結合力には差が生じておらず、この結合に温度補償性が存在していることが判明した。通常の化学結合から考えた場合、温度変化によって結合力に差が生じると予測できる。つまりこの結果は、perのmRNAとTYFの結合力の温度補償性が、概日リズムの温度補償性を生み出す原因の一つとなっている可能性を示している。このように、perのmRNAの配列とperの翻訳因子間に存在する特殊性が温度補償性を司ることまでは突き止めることができたが、なぜ、perのmRNAとTYFの結合力に温度補償性が備わっているかまでの詳細な分子機構を解明することができなかった。
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Scientific Reports
巻: 11 ページ: 2921
10.1038/s41598-021-82489-6
Science Advances
巻: 6 ページ: eabb9415
10.1126/sciadv.abb9415