研究課題/領域番号 |
18K14754
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
八杉 公基 宇都宮大学, 工学部, 研究員 (50722790)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 魚類 / 行動 / 認知 / バーチャル生物 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究にとって主要な設備である高速ビデオカメラを使った三次元撮影装置と、バーチャルフィッシュ提示装置の構築を行った。従来の撮影装置では、メダカを入れた水槽の上面からの撮影に1台、側面からの撮影に1台の計2台のハイスピードカメラで同期撮影することで、メダカの体軸座標の三次元構築を行っていた。しかしながら予備的な実験から、メダカのように鉛直方向に扁平な魚を撮影する場合、魚がカメラの方を向いたフレームで著しく体軸の推定精度が落ちることが解決すべき課題となっていた。そこで本研究では、画角が直行するように配置した2台のカメラで側面からの撮影を行い、撮影したフレームごとに二値化して得られたシルエットの大きな方のカメラの映像を選んで体軸推定を行うことで、体軸の推定精度向上を試みた。同期撮影可能なハイスピードカメラ3台を同一機種で揃えることは予算的に難しかったので、上面の1台はHAS-U1C(株式会社DITECT製)、側面の2台はacA1300-200uc(株式会社Basler製)とした。側面の2台については、メーカーサポートとの相談の末、遅延1ミリ秒以下の精度で同期できるよう回路の設計と実装を行った。上面と側面の同期については、画面内にLED点滅による信号パターンを収めることで、最大数ミリ秒のずれに収まる同期撮影を実現した。本研究では魚の行動を100fpsで撮影する予定であるので、これらの同期精度は十分許容できると考えられる。 また、本研究にとってもう一つの重要な設備である体軸推定ソフトウェアについても、当初の使用を予定していたフリーソフトウェアが本研究の目的に合致しないことが明らかとなったので、新たにDIPP-Motion V(株式会社DITECT)を入手した。そして複数の画像処理過程を組み合わせることで、安定して魚体のシルエットを取得する手法を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も引き続き、本研究に割けるエフォートが10%と当初の予定より大幅に減少している。 魚の三次元座標の推定精度を向上させるため、撮影に必要なハイスピードカメラの台数が増えた一方で、本研究の減額された予算では当初購入を予定していた機種を3台入手することは厳しく、代替の策として安価なハイスピードカメラ2台を購入し、同期システムについては研究代表者自らがメーカーと相談のもと、設計と実装を行った。この設計と実装に時間を要したというのが理由のひとつである。 もうひとつの理由は、メダカ以外の魚種での魚体のシルエット生成、および体軸推定が思いのほか困難だったことである。体軸推定が可能なソフトウェアは多くはないが、いずれも二値化したシルエットの端点を2ヶ所検出し、それらを前後軸として端点間の輪郭を等分割し結ぶことで体軸の推定座標とする方式を採用している。そのため特に側面から撮影した映像で、シルエットに含まれる鰭の面積が大きく、撮影したフレーム毎に形が変化する場合、(1) 体軸の位置が鰭に引きずられて変化する、(2) 尖った鰭を端点として体軸推定を行ってしまう、という問題が発生することがわかった。これは、本研究で対照実験を行う予定であるメダカ以外の魚類で深刻な問題であるが、撮影条件によってはメダカでも問題 (1) が発生しうることが予備実験により確認された。体軸推定を行うほとんどの研究では、使用するのは上面から撮影した映像であるため、これらの問題は三次元撮影を行う今回のような研究特有の問題だと言える。しかしながら、体軸の推定精度の向上と自動取得化は本研究の要であり、今後同様のテーマを様々な魚種で実施する場合にも不可欠なシステムとなるため、優先して解決すべき課題であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
体軸の推定アルゴリズムを新規で検討するのは実装までに時間と労力がかかり過ぎるため、既存のソフトウェアでも体軸を検出しやすいシルエットの作成が可能になる作業手順の構築を目指す。基本技術として、Python+OpenCVによる画像処理に加えて、深層学習を利用した魚の胴体部分の輪郭検出を検討している。これらに必要なPythonのコーディング、ならびに深層学習への理解と実装技術の取得を進めつつある。 体軸の推定精度の向上と自動取得化が実現され次第、新規手法としての論文化を進める一方で、それを導入したバーチャルフィッシュの作成とメダカへの提示実験を開始する。申請した内容に従い、メダカ・キンギョ・オヤニラミの遊泳行動を撮影し、水槽内の空間位置と体軸の三次元座標構築を行う。この三次元座標を編集することでバーチャルフィッシュの動きを制御する。同時に、公表済みのバーチャルフィッシュ作成マニュアル(https://doi.org/10.6084/m9.figshare.5947066)に従って、それぞれの魚の上面・側面・前面を撮影した高解像度写真から3DCGポリゴンモデルを作成する。このポリゴンモデルと様々な動きを再現した座標ファイルを組み合わせ、それらに対するメダカの反応を比較することで、相手の動きに含まれるどのような要素がメダカの行動の誘発に寄与しているかを特定し、その要素が持つ情報(種間差、性差、生物らしさなど)を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は申請時に購入予定であった高額の撮影機器ならびに解析用ソフトウェアを取得し、行動実験設備とデータ解析環境を整えることができた。しかしながら、その後行った予備実験によって、申請時には想定していなかった体軸推定を行う上での問題が確認されたため、そちらの問題解決を優先し、計画していた行動実験はまだ進められていない。また、現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、本学でも新規の実験および動物の飼育は停止されているので、体軸推定における課題解決に向けた予備的な行動観察もできない状況である。これらの実験費用ならびに成果発表にかかる費用が次年度使用額として生じた。 次年度は体軸推定手法の開発と行動実験を進め、それぞれについて成果発表を行うことを考えている。実験にかかる費用に加え、学会発表の旅費ならびにオープンアクセスジャーナルへの出版費用として使用する予定である。
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備考 |
雑誌寄稿による成果発表: 八杉公基、「動物実験用の空中ディスプレイシステムの開発 (特集 空中ディスプレイとその光学系)」、Optronics : 光技術コーディネートジャーナル 38(6)、 87-90、2019-06、オプトロニクス社
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