研究実績の概要 |
本研究は、系統特異的転写因子群SPILEが発生の秩序を保ったまま遺伝子制御ネットワーク(GRN)に挿入され、新規発生様式を制御するようになった進化過程の解明を目的とし、具体的には上流と下流のそれぞれに着目して研究を進め、以下の成果をあげた。 (1)βカテニン経路を亢進/阻害すると、SPILEおよび後述する系統特異的転写因子群の一部の発現が動物極-植物極軸に沿って拡大もしくは縮小することが明らかになった。このことは、βカテニン経路が系統特異的転写因子群の割球特異的な発現を制御していること、およびSPILEを始めとした系統特異的転写因子群が初期発生過程のGRNへ挿入されるにはβカテニン経路による制御を受けるようになることが必要であったことを示唆する。一方で、内在性βカテニンの局在をGFP融合mRNA注入などの方法でトレースすることに成功しておらず、今後手法を再検討する必要がある。 (2) 8ステージの時系列トランスクリプトーム解析を行い、SPILEのターゲットとなりうる32細胞/桑実胚期で発現が開始される転写因子群を抽出し、ISH法により発現パターンを精査した。その結果、32細胞期/桑実胚期において領域特異的な発現を示す転写因子群(ex: Otx:繊毛, GATA:内胚葉、Lopx:背側オーガナイザー)を多数同定することに成功した。一方で、SPILEと同様に8-16細胞期に特定の割球では発現が開始する系統特異的な転写因子群が20ほど同定された。このことは、想定よりも遥かに多くの系統特異的転写因子群が初期発生GRNにリクルートされたことを示唆する。今後、同定されてきた遺伝子群の機能解析を進めることで、初期発生GRNの全貌およびらせん卵割型発生の進化プロセスを明らかにしていく。
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