2023年度は前年度に引き続き、被食者(大腸菌)、捕食者(Bdellovibrio bacteriovorus)、超捕食者(B. bacteriovorus感染性ウイルス)の3種を用いた二者および三者混合連続培養系による短期(5週間)、中期(10週間)進化実験、さらには被食者としてPseudomonas fluorescensを用いた長期(10ヶ月)進化実験において得られた各種進化株・集団を対象に、生理学的・遺伝学的解析を実施した。短期進化実験で得られた捕食者進化株の性状解析の結果、二者系進化株でみられた捕食性能の多様化(上昇するケースと低下するケースが混在)とは対照的に、三者系進化株では一部の例外を除いて捕食性能が低下していた(最大でおよそ18%程度の捕食効率の低下)。このことは三者系特有の進化軌道すなわち超捕食者からの選択圧に対する適応と捕食性能との間にトレードオフが存在し、超捕食者の存在が捕食者の進化を制約することを強く示唆している。 本研究では捕食性細菌および捕食性細菌に対する捕食者を利用した他に類をみないミクロコズム実験を実施することで、捕食者の進化と被食者の対抗進化、さらには超捕食者による捕食者の進化制約といった様々な進化現象を実験室環境において見出すことができた。また、観察された表現型変化に資すると考えられるゲノム変化についても集団ゲノム解析によって捉えることに成功しており、進化現象の分子基盤を明らかにしつつある。詳細な進化動態や分子基盤については今後さらに解析を進めていく必要があるが、これまでの本研究の成果は連鎖する被食‐捕食系における生態・進化動態に関する実験的解析例として進化・生態学的に重要な基盤的知見である。
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