研究実績の概要 |
本研究の目的は,新規環境進出における遺伝的同化の有無を,ゲノミクスとエピジェネティクスの手法を用いて検証することである.遺伝的同化は,集団が経験する低い適応度が可塑性で対処された後に,適応進化が追随する現象を指す.遺伝的同化は新規環境進出における表現型可塑性の役割を解明する上で重要な現象とされる.本研究ではDNAメチル化の環境間での可塑的応答に着目し,それとゲノム上の自然選択の履歴を対応させて分析することで,遺伝的同化の有無について検証する.海域から新規環境である淡水域に繰り返し進入した魚類のイトヨを材料に,淡水適応に関連した遺伝的同化が起きた候補となるゲノム領域を探索する.本年度では以下の研究内容を実施した. (1)全ゲノム解析による集団動態の推定と自然選択の検出 複数のイトヨ淡水集団を対象に,全ゲノム解析を行った.まずデモグラフィ解析を行ったところ,日本のイトヨ集団は回遊集団と遺伝子流動を経験していない,もしくはその量が非常に少ないことが示された.淡水化年代は集団ごとに異なる傾向があった.また自然選択の検出も行った.選択的一掃の検出を試みたところ,集団毎に多数の自然選択の痕跡を発見した. (2)異なる塩分環境におけるメチル化パターンの違いと遺伝的同化の候補領域推定 飼育実験を実施し,3つの淡水集団と1つの回遊集団で,異なる塩分環境で飼育し,異なるメチル化パターンが導入されたと期待されるサンプルを得た.現在バイサルファイトシーケンスを実施し,メチル化パターンのデータを取得中である. (3)メチル化の着脱を制御するゲノム領域の推定 QTLマッピングに用いる家系を作成した.当初の予定通り,3つの淡水集団のそれぞれを回遊集団と掛け合わせ,F1を作出した.
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