本研究では、近縁種間において観察される性的二型の多様化に関わる進化・遺伝機構について、分子レベルでその詳細を解明することを目的としている。多様な婚姻色を示すインドネシア・スラウェシ島固有のメダカ科魚類のうち、特に南東部の離島であるムナ島に生息するウォウォールメダカ種群を実験モデルとして、特にそれらの雄で獲得された胸鰭の赤色婚姻色に着目して研究を行っている。昨年度までの遺伝学的解析およびトランスクリプトーム解析、赤色婚姻色多様化の有力な候補遺伝子としてcsf1を同定し、ゲノム編集実験により赤色素胞の形成と雌による配偶者選好への重要性について検証した。本年度はcsf1の発現調節機構の詳細な解析と赤色婚姻色の進化的意義の解明をさらに進めるべく、次の実験を行った。 1) csf1遺伝子が雄で高発現する機構を解明するために、アンドロゲン投与後の発現量を定量し、csf1がアンドロゲンシグナルで発現誘導されることを示した。2) ゲノム編集で作製したcsf1変異体および同所的に生息するサヨリを用いて、赤色婚姻色が捕食圧に与える影響を解析した。現在、定量的な解析を進行中である。3) 赤色や黄色を婚姻色として用いる他の種におけるcsf1の役割を検証するため、他のメダカ近縁種における定量的RT-PCRに加え、キンギョハナダイ、イトヨ、トミヨにおけるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、csf1の発現上昇と赤色・黄色の発現部位に相関が見られなかった。
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