研究課題/領域番号 |
18K14772
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
西海 望 基礎生物学研究所, 神経生理学研究室, NIBBリサーチフェロー (10760390)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Parallel Navigation / 比例航法 / 運動視差立体視 |
研究実績の概要 |
本研究では、動物の餌追跡運動の中で最も高度なものとして考えられているParallel Navigation の機能を検証し、実際に餌生物に到達する上でどのような優位性があるのかを明らかにする。この検証には、捕食者と被食者の相互作用において、捕食者側の動きを完全に制御する必要がある。その方策として、本研究では、行動制御可能な仮想捕食者を立体映像としてつくりだし、餌生物と対面させるという手法を採用した。本年度は、この手法の中核となる情報処理システムの開発を行った。当処理システムは、1.ターゲット動物の高速撮影と座標算出、2.仮想捕食者の追跡運動制御、3.ディスプレイへの描画の三項目から成っており、各々において以下のように研究が進展した。 1.に関しては、計算処理の高速化を達成した。ここでは、本研究で用いる画像処理用ライブラリの処理速度に関する欠点を補うため、処理が速いプロセスと遅いプロセスを分離し、並行処理によって遅延の影響を最小化した。これによって、高速カメラから送られてくる画像をリアルタイムで処理し、ターゲットの三次元位置座標を算出することが可能になった。 2.に関しては、仮想捕食者を Parallel Navigation へと導く制御アルゴリズムとして、比例航法など各種航法アルゴリズムを試作した。また次年度予定している動物の運動計測の準備として、コウモリの餌追跡運動を解析したところ、これまで報告のない移動パターンで餌を巧みに捕らえている事例を発見したため、そのことを2件の学術会議にて発表した。 3.に関しては、立体映像を複数のディスプレイに一度に描画できるようにした。これによって、多数のディスプレイで動物を囲み仮想環境に没入させる目処が立った。本技術の一部を2件の学術会議にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対面実験系の構築については、ソフトウェア面での開発は順調に進行した。他方、本年度予定していた検証実験は延期され、次年度に持ち越すこととなった。この延期は、本年度後半の段階で、当初計画にはなかった優れた情報処理システムを開発できる可能性が見いだされ、予定を変更し情報処理システムの再設計を行ったためである。対面実験系は三年目に使用される予定であるため、この延期が直ちに研究遂行の支障となるわけではなく、むしろ優れた情報処理システムを導入できることによる利の方が大きいと判断した。また、対象動物の追跡運動の計測は2年目から実施する予定であったが、一部予定を繰り上げ本年度中にも予備的に動物の餌追跡行動を観察し、運動を三次元的に計測する際の手順等を確認できた。したがって、一部予定通りにいかない点はあったものの概ね順調に研究が進行したと結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目も引き続き対面実験系の開発を進め、三年目の検証実験実施に向けて準備を万全にする。 まず現在行なっている情報処理システムの修正が完了し次第、対面実験系の実証試験を行う。実証試験では、高速で逃げ回る小型飛翔昆虫(ショウジョウバエなど)に対する、カメラの捕捉能力、三次元座標変換精度を調べ、その結果をもとに、適宜改修を重ねていく。 対面実験系の改修が済んだ後は、仮想捕食者の追跡アルゴリズムの作成を行う。仮想捕食者のモデルとしてハラビロトンボを用いる。ハラビロトンボの追跡運動は Parallel Navigation に則って行われると予想されるが、その動きは種ごとの運動特性や情報処理能力によって大きく変わってくるはずである。そこで、小型飛翔昆虫に対するハラビロトンボの追跡運動を実験下で計測し、初年度に作成した各種航法を適宜組み合わせながら、本種の特徴を取り入れた Parallel Navigation型追跡運動アルゴリズムを作成する。また、対照実験用に、 Parallel Navigation の有無や強弱を調整したアルゴリズムも作成する。 全ての作業が完了した後は予備実験を行い、すべての機構が問題なく高速で作動しているかどうか確認し、問題が確認できれば適宜改修を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた対面実験系の実証試験が次年度に延期された結果、その実証試験にかかる経費分が次年度使用額として生じた。当該助成金は次年度に行う実証試験に使用される。
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