本年度は、引き続き国内外の研究者と協力して、訪花性カミキリムシの生態情報、遺伝子解析用サンプルおよび遺伝子情報の収集を行った。本年度に追加したデータにより、訪花性カミキリムシの大群であり、またカミキリムシの中でも唯一亜科レベルで訪花性を示すハナカミキリ亜科のデータをより充実させることができた。一方で、ハナカミキリ亜科と同様に訪花性カミキリムシの大群であるカミキリ亜科については、南半球に分布する分類群をはじめとして十分な資料や情報を得ることができなかった。 そこで、ハナカミキリ亜科を主な対象として訪花性に関する進化学的解析を行った。その結果、ハナカミキリ亜科は白亜紀前期~中期に被子植物の花を利用する一群として出現した後、新生代中紀までに花を効率的に利用する系統が複数現れ、それらが多様化したことで、現代の本亜科の繁栄につながったと考えられた。 一方で、カミキリ亜科については、不十分な材料に基づく暫定的な解析結果ではあるものの、ハナカミキリ亜科同様に白亜紀前期~中期に出現した祖先群が、当時から被子植物の花を利用していたと推定された。また、ハナカミキリ亜科とカミキリ亜科は、系統的に離れており、その訪花性はそれぞれ独立に獲得されたと推定された。 これらの結果から、カミキリムシの訪花性は、白亜紀前期~中期に少なくともハナカミキリ亜科とカミキリ亜科で独立に獲得されたものであることが示唆された。これは、白亜紀前期から中期にかけて出現したと考えられている被子植物の昆虫受粉生態系において、訪花性カミキリムシも初期の受粉媒介者の一群としての役割を担っていた可能性を示唆するものである。
|