研究課題
植物が生態的種分化を遂げる過程では,自然選択によって集団が生殖的に隔離されることが必要条件となる.とくに集団の繁殖に関わる形質に分断化選択が働いた場合,他集団から生殖的に隔離されることで新しい種が急速に生まれる可能性がある.申請研究では,北海道に分布するキク科植物・アキノキリンソウの開花期の変異に着目する.北海道では9月に開花する通常型に加えて,6-8月に開花する早咲きの集団が蛇紋岩地帯と高山帯に分布している.この早咲き性は蛇紋岩地帯と高山という異なる環境で平行選択され,それぞれの局所集団の分化に関わっている.そこで申請研究では,この3つのエコタイプの全ゲノム解析を行うことにより,種分化遺伝子として期待される開花関連遺伝子を特定し,新規変異による進化と既存変異による進化の相対的な重要性を検証する.平成30年度は,北海道の2か所の蛇紋岩地とそれぞれに隣接する2か所の非蛇紋岩地,そして大雪山系の1か所の高山地に生育するアキノキリンソウのゲノムリシークエンスを実施した.得られた配列データをゲノムリファレンスにマッピングして変異検出を行い,生態型間で顕著な分化を示す遺伝マーカーを抽出した.2ヶ所の離れた蛇紋岩地の早咲き集団と,非蛇紋岩地の遅咲き集団を比較した結果,それぞれ異なる開花期関連遺伝子の周辺領域の遺伝的分化度が上昇していた.ひとつの比較ペアでは,開花期調整の統合部にあたる遺伝子上流に,蛇紋岩地の早咲き系統で約300bpの欠失が見つかったのに対し,もう一つのペアの間では複数の塩基置換が遺伝子領域に見つかった.一方,高山で早咲き性を示す系統と低地の遅咲き系統の比較では,アウトライヤー領域のなかに開花期関連遺伝子が含まれていなかった.また,低地蛇紋岩型で自然選択の影響を受けていると考えられる遺伝子における分化は低かった.
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は野外調査とゲノムリシークエンスを計画通りに完了した.また得られたデータの分析から,異なる開花期を示す土壌生態型集団の間で顕著な遺伝的分化を示す開花期関連遺伝子を特定することができた.こうした成果より,申請研究はおおむね順調に進展していると判断した.
初年度の研究結果より,低地における蛇紋岩型(早咲き)と非蛇紋岩型(遅咲き)の間で顕著な分化を示す開花関連遺伝子を見出すことができた.そのため,今後は集団遺伝学的アプローチによってこうした領域の中立検定を行い,自然選択の影響が検出されるかどうかを確かめる.加えて,解析地点・個体数(離れた蛇紋岩地帯やさまざまな標高帯から採取したサンプルを用いる)を増やして2つの開花期関連遺伝子領域をリシークエンスし,野外集団の中で種分化遺伝子の対立遺伝子頻度がどのように分布しているのか調べる.一方,高山に生育する早咲き系統については,初年度の解析では開花期に関連する候補遺伝子を特定することができなかった.平成31年度は,大雪山系から離れた別山系でもう1集団を採取することで高山型の配列データを補充し,再解析を行う必要がある.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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