研究課題/領域番号 |
18K14782
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
渡邊 謙太 沖縄工業高等専門学校, 技術支援室, 技術専門職員 (50510111)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ボチョウジ属 / 繁殖干渉 / 種間相互作用 / 琉球列島 / 土壌適応 / 異質倍数体 / ポリネーション / Psychotria |
研究実績の概要 |
本研究では、琉球列島の2タイプの常緑広葉樹林に異所的に生育する近縁種ボチョウジとナガミの棲み分けを両種の種間相互作用(繁殖干渉)から解明することを目指している。具体的には、1)繁殖干渉と交雑帯の調査、2)土壌適性試験、3)繁殖干渉の前提となる分布変遷の系統地理解析からの推定、4)種間関係を考慮した生態ニッチモデルの構築とそのモデルを用いた分布形成要因の検証を行う。2019年度は1-3の各項目について以下のように同時並行で研究を実施した。 1)繁殖干渉と交雑体の調査 名護岳と末吉公園において、繁殖干渉を検証する目的で、各種受粉実験(異種間・混合花粉・同種内)と自然結果率の調査を実施した。また乙羽岳と名護岳の推定雑種個体に対しても花の観察と受粉実験、及び葉緑体DNAの解析を実施した。これらの受粉実験の結果、2種の雑種はある程度の確率で果実までを形成するが、その後順次アボートされ、結実・発芽するものはごくわずかであることが確認された。また推定F1雑種個体は花粉の生産能がなく、雌花もしくは不稔花のみをつけ、雌花はまれに種子を作り、その種子には発芽能があること、推定雑種の母はすべてナガミであることがわかってきた。さらに、交雑帯におけるDNA解析を実施した。 2)土壌適応試験 石灰岩・非石灰岩土壌において、相互移植実験を継続的に実施し、モニタリングを続けている。水耕栽培実験、プランターによる栽培実験と同様に、ナガミはどちらの土壌でも生育できるが、ボチョウジは石灰岩性土壌では死亡率が高いことが統計的に示された。 3)系統地理解析 各地から採集したボチョウジとナガミ、及びその周辺の近縁種のDNA抽出を順次進め、雑種・交雑帯の個体も含めてMIG-seq解析を実施した。その結果、地理的な解析を行うのに十分なSNPs(一塩基多型)を得られること、推定雑種はすべてF1である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要において記述したように、2019年度は1)繁殖干渉と交雑体の調査、2)土壌適応試験、3)系統地理解析の3項目について同時並行で研究を実施した。 1)繁殖干渉と交雑体の調査については、沖縄島の2集団において各種受粉実験を実施しており、また新たに大規模な交雑帯を発見したこともあり、研究計画を超える収穫があった。2)土壌適応試験についても、移植実験モニタリングの最終段階に入っており、両種の土壌適性について、情報がほぼ揃い、現在このデータを整理して論文にまとめる準備をしている。またボチョウジについて根から抽出したRNAを解析し(RNA-seq)、土壌適応に関連したアルミニウム・トランスポーター関連の遺伝子発現を調べ論文として出版した。一方、土壌成分の分析については次年度の課題とした。 3)系統地理解析については、DNAの抽出を進め、予備的MIG-seq法によるSNPs解析の有効性も確認できた。ただし、サンプルは十分に網羅できたとは言い難く、またすべてのサンプルのDNA抽出を終えることができていないため、今後もDNAサンプルの採集を続ける必要がある。最終研究年度までに結果を出すことは十分可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、琉球列島の2タイプの常緑広葉樹林に異所的に生育する近縁種ボチョウジとナガミの棲み分けを両種の種間相互作用から解明することを目指し、以下のような計画で研究を進める。 1)繁殖干渉と交雑帯の調査 令和1年度の研究から有効性の確認されたMIG-seq法を用いて、交雑帯におけるDNAの解析を実施し、交雑の実態を明らかにする。またこれらの調査の過程で発見された名護岳山頂部の大規模な雑種群についてもその遺伝的素性を明らかにする。繁殖干渉を確かめる受粉実験については、データの確実性を増すために追加実験を行い、種子の発芽実験、生育実験までを行う。 2)土壌適性試験 土壌の適正試験については前年度までに得られたデータを解析し、論文としてまとめること、またその過程で必要と考えられる土壌成分の分析を進め、年度内に結果を論文として投稿することを予定する。また現在はナガミにおける遺伝子発現パターンも解析しており、令和2年度中にボチョウジとの比較論文を投稿する。 3)繁殖干渉の前提となる分布変遷の系統地理解析からの推定 令和1年度の予備的な実験により、MIG-seq法が雑種判定と系統地理的解析に有効であることが確かめられた。令和2年度は北琉球、及び台湾・中国方面においてDNAサンプルを加えてMIG-seqを実施し、より詳細な交雑の状況と、系統の広がりについて解析する予定である。ただし、新型コロナウィルスの影響によりサンプリング予定は不確実である。 4)種間関係を考慮した生態ニッチモデルの構築とそのモデルを用いた分布形成要因の検証 文献データ及び、これまでの観察データに基づき、二種の地理的在不在データを作成する。ソフトウェアMaxEntを用い、種の在不在データを応答変数とし、気温、土壌、地質基盤、競合種の在不在と上記土壌サンプルのデータを説明変数としてモデルを構築し、現実の分布の予測精度を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.令和元年度、予定していた1件の海外調査、3件の国内学会発表、2件の国内調査が新型コロナウィルス感染症の拡大防止対策のため実施できなくなったため、旅費については繰り越して、次年度に実施することを計画している。 2. MIG-seq遺伝的解析についても、サンプル採集・DNA抽出が遅れたため、次年度に本格的に実施することを予定であり、そのために予算を繰り越している。
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