ヒトは単語を文法のルールに従って組み合わせ,さまざまな文章をつくり会話する。また,聞き手(読み手)は文法のルールを当てはめることで,単語の組み合わせから派生する文章の意味を正しく理解できる。ヒトの幼児は驚くほどスピーディかつスムーズにこのような文法能力を獲得するが,同様の発達過程は他の霊長類において未だに確認されておらず,言語の習得にかかわる様々な機構が,どのように適応し,進化してきたのか,生態学的な根拠のもと考察することが困難な状態にある。 それに対して,申請者は,詳細な行動観察や音声解析,野外実験を通して,鳥類の一種・シジュウカラが文法を用いて他個体に情報を伝えていることを発見した。本種は「警戒」と「集合」を意味する異なる音声を組み合わせ,群れの仲間に「警戒しながら集まれ(そして捕食者を追い払おう)」という複雑な情報を伝える。この音声の組み合わせには文法ルール(警戒→集合)が存在し,それに反すると情報が正しく伝わらないことも,音声再生実験から明らかになった。さらに,本種はこの文法のルールを当てはめることで,初めて聞いた音声の組み合わせからも正しく情報を解読できることも実験的に示された。 これらを踏まえ,本研究では,シジュウカラにみつかった文法能力がどのような過程や機構(学習・生得)によって発達するのか明らかにすることを目的とした。 巣箱を設置し,そこで繁殖したシジュウカラのヒナを対象に実験をおこなった。具体的には孵化後5日目,11日目,17日目のヒナに対して,親鳥の各音声をスピーカーから再生し,行動変化を計測した。また,ヒナが成長に伴いどのように発声を変化させるのか調べるために,巣立ち後も家族群を追跡し,録音する調査をおこなった。
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