研究課題
当該年度の成果は、大きく分けて2点挙げられる。1つ目は漂流プラスチックの分布量を把握した点であり、2つ目は予備的にではあるが沿岸に生息していた魚類(マアジとマサバ)によるマイクロプラスチックの誤食実態を明らかにした点である。九州西方海上のマイクロプラスチックの分布密度は、1平方キロメートル当たりにすると沖合では360000±130000個で、沿岸域では1100000±290000個であった。これらの密度は、世界的にみても非常に多い値であることから、早急な対策が必要であることが示唆された。また、マイクロプラスチックに限らずそれよりも大型のサイズの海ゴミも船上からの目視調査とトロール操業時の海底に存在する人工物を定量した。一方、九州西岸の沿岸域に生息していたマサバとマアジを釣獲してその胃内容物を精査した調査では、マサバ(n=50)で約50%の個体割合で、マアジ(n=47)でも約43%の割合でマイクロプラスチックが見つかった。今後、マイクロプラスチックの誤食プロセスを明らかにする必要がある。当該年度の成果を研究計画と照らし合わせると、「マイクロプラスチックは広い海域で普遍的に存在している」と「魚介類はマイクロプラスチックを誤食している」という当初の作業仮説を強く支持するものとなった。これらの結果の一部は、平成30年度の第66回日本生態学会大会(神戸)、平成30年度公益財団法人日本水産学会秋季大会(広島)および第139回日本航海学会大会(富山)などで発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は日本周辺海域のマイクロプラスチックとその供給源となり得る大型のプラスチック(視認プラスチック)の現存量を明らかにする目的で、漂流マイクロプラスチック、海上および海底ゴミの調査の実施と予備的に魚類のサンプリングと胃内容物の精査を計画していた。いずれの項目も実施、定量することができており新たな課題も明らかになりつつあるが概ね順調に進展している。
今後はマイクロプラスチックの現存量調査と魚類の誤食影響評価を実施する。すなわち、漂流マイクロプラスチックの分布密度については、昨年度と同様の方法でニューストンネットによる調査を継続させる。また、潮目など地点による分布密度の差異を明らかにするために、航海毎にラインセクトを設定して複数点(9点)でニューストンネット・サンプリングを実施する。なお、トロール操業時に実施した海底ゴミの調査と漂流大型ゴミの目視調査も継続して実施する予定である。魚類の誤食に関する研究は、野外での誤食実態を詳細に明らかにして、いつ、どこで、どれくらい誤食しているのか明らかにする。更に、飼育実験を開始して誤食メカニズムの解明に迫る予定である。以上の研究活動を通して、学会発表や論文出版で成果の公表を推進する方策である。
平成30年度には委託によりマイクロプラスチックの成分分析を行う予定であったが、学内共同利用機器の使用により当初の計画より低予算で解析が実行できたため未使用額が生じた。このため、令和元年度には更に小型の顕微タイプの赤外分光光度計による解析とシンポジウムでの発表を行うこととし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
第139回講演会日本航海学会講演予稿集
巻: 6 ページ: 119-122
https://researchmap.jp/7000001968
https://sites.google.com/view/yagi-lab/