多くのアリ種は閉空間且つ高密度環境下で生息するため、巣内で病原性微生物が蔓延するのを防ぐことがコロニーの存在に必須である。これまで、社会性免疫機構と呼ばれる集団レベルの防衛機構が進化していると考えられている。しかしながら、その詳細なメカニズムについては未解明である。本研究では、アリがもともと備えている免疫システムに加えて腸内共生細菌が持つ病原性微生物に対する防疫機能に着目して、トゲオオハリアリを用いてアリの免疫機構を明らかにすることを目的とした。まず、腸内にどのような細菌が存在するかを調べるために、女王、オス、巣外で働く外役ワーカーの3つのカテゴリに着目し、野外で採集した個体を用いて細菌叢の網羅的解析を行った。その結果、ほぼ全てのワーカーでは1つのOTUによって細菌叢のほとんどの割り合いが占められることを明らかにした。系統解析とFISH法を用いた顕微鏡観察によって、Firmicutes門に含まれる1種の未同定細菌 (Firmicute symbiont: FS)が後腸の前方に局在していることが明らかになった。FSの防疫機能を調べるために、抗生物質によってFSを含む腸内細菌を除去した処理区とコントロール区を設け、内役ワーカーと外役ワーカーのそれぞれに昆虫病原性細菌であるPseudomonas entomophilaを経口摂取させて生存実験を行った。その結果、外役ワーカーでは抗生物質処理区において、P. entomophilaによる死亡率が高くなることが示された。ワーカーは内役である若齢時にはFSを獲得せず、老齢になるとFSの獲得が示されたことから、巣外で未知の微生物と出会う可能性の高い外役ワーカーでは、FSを多く保持することで防衛機能を高めていることが示唆された。
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