生態系は多様な生物を通して、食料資源の生産、有害物質の分解、大気・水環境の維持、自然災害の緩和といった多くの機能を人類に提供している。生態学や環境学の分野では、生態系がもつ機能(生態系機能)を安定的に維持する機構を解明することが最大の研究課題のひとつとなってきた。特に「生物が多様なほど、高い生態系機能を発揮するか?安定するか?」(生物多様性と生態系機能の関係性)という疑問に対しては多くの研究が行われてきたが、これまでの研究では競争系や3栄養段階系といった単純な系についてしか理論的な関係性は明らかになっていない。本研究課題では、①ネットワーク理論を用いて、多種系の微分方程式から平衡解における生態系機能の解析解を近似的に計算する手法を考案し、②ランダム群集(生物間相互作用の正負や大きさが無作為に決まっている群集)における生物多様性と生態系機能の関係性を導くことに成功した。また、数理シミュレーションにより、導いた関係性が数値的にもよく成り立つことを確認した。 本研究課題では明らかになった主要な理論予測は以下の通りである:①ランダム群集において、生物種数の増加が生態系機能を発揮する生物の増加につながるかに依存して、生物多様性と生態系機能の関係性は定性的に大きく変化する。生物種数の増加により生態系機能を発揮する生物の増加が想定される場合、②種数の増加によって生態系機能は増加する、③種数の増加によって(多くの場合)生態系機能は安定化する、④相互作用数・相互作用強度の増加によって(多くの場合)生態系機能は不安定化する。⑤相互作用ネットワークの対称性や異質性も生物多様性と生態系機能の関係性を定量的に大きく変化させる。これらの理論予測のいくつかはこれまでの研究で確認されていないものであるため、今後の研究で実証していく必要がある。
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