研究実績の概要 |
本研究では、種子食特化を共通の特徴としながら、歯の形態適応が異なり、系統的にも異なる属に位置する2種のマンガベイについて、採食行動と社会行動を同所的に生息する環境で比較することによって、種子食適応が社会生態進化に及ぼす影響について明らかにすることを目的としている。 本年度は、これまでの自動撮影カメラのデータから、両種の生息地利用と社会生態を分析した。映像データが5万枚以上におよび、分析にかなりの時間がかかってしまったため、予定していた国内学会での発表はできなかったが、年度内に動画分析を終え、予備的な統計解析によると、空間分布の明確な種間差を示す結果が得られている。 アジルマンガベイ (Cercecebus agilis) はもっぱら地上のみを利用し、植生攪乱が起きている村の近くや伐採区にも数多く分布していた。一方で、ホオジロマンガベイ (Lophocebus albigena) は樹上の樹冠近くをもっぱら利用し、攪乱の少ない植生帯を好んで利用していた。また、1枚の映像に映る個体数ではアジルマンガベイがホオジロマンガベイに比べて多く、群れ内の平均的な個体間距離が近いことが示唆された。これは、両種の利用空間の違い(地上 vs. 樹冠)が強く影響していると考えられる。今後、解析をより精緻化して、得られた成果を速やかに学術論文としてまとめる予定である。 さらに、研究の過程で、霊長類学・人類学・科学論に関する文献を幅広く渉猟し、また、12月の日本霊長類学会で他の霊長類学者・生態学者と意見交換を行った。この成果をまとめるため、霊長類の社会進化に関する英文書籍を執筆した (Yamagiwa & Hongo, 2020)。
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