研究課題/領域番号 |
18K14807
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
李 相逸 北海道大学, 工学研究院, 助教 (70738880)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光環境 / 壁の配色 / 反射光 / ヒト / 光の非視覚的作用 / 瞳孔 |
研究実績の概要 |
室内の光環境として、照明からの光以外にも、壁などから反射される光(反射光)も含まれる.本研究は、照明と壁の関係によって変わる室内光環境が、ヒトの非視覚的作用(メラトニンの光抑制、概日リズムの位相変動、瞳孔の対光反射など)に及ぼす影響について検討することを目的にしている. 今年度(H30)は予備実験として、壁の配色と距離の違いによる反射光の明るさや波長成分の違いがヒトの瞳孔の対光反射に及ぼす影響について調べた。実験はクロスオーバーデザインで、3色の壁(同素材の白、青、ピンク)と4つの距離(20、40、60、80cm)における瞳孔面積を測定した。その結果、白壁条件時の瞳孔の縮瞳率(%)は、すべての距離において青壁やピンク壁時より有意に高く、その差は距離が遠いほど顕著であった。青壁とピンク壁の間では縮瞳率に有意な差は認められなかった.まだ限られた条件での結果ではあるが、H30年度の研究より、壁の配色と距離によって異なる室内の光環境(波長成分や明るさ)を数値で示し、壁の有無や配色が室内光環境に深く関わっていることを明らかにした.また、瞳孔反射の結果より、夜の光環境を考えるにあたって、白壁の使用は明るさ感を増すには有利であるが、ヒトの生理的機能に余分な刺激を与えることが明らかになった。一方で、青壁はピンク壁に比べて短波長光を多く反射するが、瞳孔反射においてピンク壁以上の影響は与えないことが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年12月1日より所属先が九州大学から北海道大学に変更された.現在所属している研究室(環境人間工学研究室)が有している実験施設は、光条件を制御するための施設や寝泊り可能な施設が不在しており、また、実験データの測定、保管、分析に必要な機材(瞳孔計、-30℃以下の冷凍庫など)が備わっていなかった.そのため、本来計画していたメラトニンの分泌や概日リズムの位相に対する反射光の影響を明らかにするための実験は厳しい状況であった.従って、H30年度は、まず光の実験ができるような準備を進めており、予備実験を行うように計画を変更した.以上の理由より、本研究課題の進捗状況はやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
課題①、H30年度は一つの照明条件で複数の壁条件について検討を行った.H31年度は、照明の条件(明るさや色温度など)と壁の配色の関係によって変わる室内光環境の特徴について調べ、ヒトの瞳孔の対光反射に及ぼす影響について検討を行う.(瞳孔の対光反射は短時間で複数の条件に対する評価に有効な生理指標) 課題②、H30年度の研究結果より、壁の配色を変えることで夜勤時における余分な光刺激を減らせることが考えられる.そのため、H31年度は明るい部屋で壁や床の配色を変えることが深夜勤務時(模擬夜勤)の概日リズムの位相やメラトニンの光抑制に与える影響について検討を行う.同時に、各環境に対する視認性、眠気、疲れなどの主観的な評価も行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
所属先の変更(九州大学から北海道大学に変更)により、実験機材や施設が不十分だったため、本来計画していた研究の進捗状況がやや遅れている.本来の実験計画として、模擬夜勤の研究を行う予定だったが、そのために消耗品購入費や人件費(被験者の謝礼金など)を確保していたのが次年度使用額として生じている.次年度(H31)では予定通りに模擬夜勤実験を行う予定である.H30年度分に残した助成金と翌年度分として請求した助成金と合わせることで本来の計画以上に被験者の確保が可能で、また、実験条件を増やすことや測定項目を増やすことも可能であると考えているため、この点について十分に検討した上で予算を使用する予定である. 参考までに、模擬夜勤実験は24時間以上被験者を拘束することがあり、条件の数分拘束時間も伸びるため、被験者の謝礼金が高くなることが一般的である.なお、本研究では唾液中メラトニンの測定を行うが、その分析費用がかなり高いためある程度の予算確保が必要である.
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