研究課題/領域番号 |
18K14813
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 星歌 金沢大学, 生命理工学系, 研究協力員 (40793196)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経科学 / 性行動 / 即初期遺伝子 |
研究実績の概要 |
外界からの感覚情報に対して適切な行動によって応答することは、個体の生存及び種の維持に重要である。動物の多くの行動は一度の決断で行動が全て行われるわけではなく、常に様々な感覚情報によるフィードバックを元に行動決定を繰り返している。しかし、感覚情報に応じて行動の発現が制御される神経機構については不明な点が多く残されている。本研究では、感覚入力と行動出力の対応関係が明確な昆虫(ショウジョウバエ)の性フェロモンと性行動に着目し、動物が多種感覚を統合し適切な行動の発現制御を行う神経機構を明らかにすることを目指す。 これまでに独自に開発した活動依存的な神経回路ラベル法を利用し、ショウジョウバエの雄の脳では性行動時に嗅覚と味覚の2種類の性フェロモン情報が統合される領域aSP2が活動することを同定してきた。本年度はaSP2の性行動における重要性を明らかにするために、aSP2の機能を阻害した雄の詳細な行動解析を行った。その結果、aSP2阻害雄では求愛の開始に異常は見られなかったが、求愛の持続時間が有意に短くなった。これにより、aSP2は雌に対する求愛開始を判断し行動を開始する為には必要でないが、雄の求愛行動の持続に必要であることが示唆された。これらの結果をこれまでの研究内容と合わせてまとめ、論文発表した。また、今後雄の脳内でaSP2の活動を詳細に解析するため、カルシウムイメージングを行うための条件検討を行った。今後はカルシウムイメージング法を用いて、さらに詳細にaSP2の活動様態を解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度中に行った行動実験の結果を含めた論文を執筆・発表したため、研究には一定の進捗があったと考えている。しかし出産と育児に伴い3ヶ月間の研究中断期間が生じ、当初予定していたカルシウムイメージング実験を行うことができなかったので「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.aSP2神経活動のカルシウムイメージングによる解析 aSP2神経細胞にカルシウムインジケータータンパク質を発現させたショウジョウバエを用いて、感覚刺激と神経活動の関連を調べる。顕微鏡下で半拘束状態にした雄に対して雌の提示による嗅覚・味覚刺激を行う。特に、複数の感覚刺激を動じに与えた際に神経活動が相加的・相乗的に増加するかを調べる。本手法ではオスが歩行可能な状態で刺激を与えるため、自然条件に近い状態での神経活動を記録できると考えている。 2.aSP2神経の活動がP1神経の活動に影響する可能性の検討 aSP2神経細胞は性行動を指令するコマンド神経(P1神経)に入力経路を持つことが知られている。これらの神経細胞間で機能的な接続が存在する場合、aSP2神経が活動した際にP1神経も活動すると予想される。そこで、aSP2を人為的に活性化させ、P1神経の活動をCaイメージングにより解析する。また、先行研究よりaSP2神経細胞はグルタミン酸作動性であることが分かっている。各種グルタミン酸受容体のブロッカーを用いて、どのような種類のグルタミン酸受容体によってP1神経の活動が制御されているかを明らかにする。さらに、P1神経に発現するグルタミン酸受容体のノックダウンを行い、aSP2神経活動時のP1神経の応答に変化がみられるかをCaイメージングにより解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は研究中断期間(3ヶ月間)の発生及び論文執筆期間が長かった影響で、予定より物品費の使用額が少なかった。また、2018年度中に予定していた実験の一部を2019年度に行うこととしたため、次年度使用額が生じている。2019年度はショウジョウバエの飼育に加えカルシウムイメージングの為の試薬や器具購入の為に助成金を使用する予定である。
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