研究実績の概要 |
動物が生存や生殖の競争を勝ち抜くためには、周囲の環境状況に応じて適切な行動を選択することが不可欠である。脳は様々な感覚情報を元に行動の選択及び制御を行うと考えられるが、脳の高次中枢においてどのような神経機構によって多種の感覚情報が統合され、行動が選択されるかについては不明な点が多い。私は雄のショウジョウバエの性行動(雌への求愛及び交尾行動)をモデルとして、この問題の解明に取り組んできた。 昨年度までの研究で、私はショウジョウバエ雄の脳高次中枢に存在するaSP2と呼ばれる神経群が雄の性行動時に活動することを発見し、この神経群が雄の性行動モチベーション制御に重要な役割を持つことを明らかにした(PNAS, 2019)。また、aSP2神経は雌の存在時に嗅覚及び味覚の感覚入力依存的に活動したことから、aSP2神経が雌由来の複数の感覚情報を統合する役割を持つ可能性がある。 これまでの研究では、aSP2がリアルタイムでどのように活動するかは不明であった。そこで、2020年度は、カルシウムイメージングにより、雄に雌を触れさせた際のaSP2神経の活動をリアルタイムで解析した。その結果、雌との接触時にaSP2神経の活動が変化することが示唆された。また、Hr38とは別の初期応答遺伝子stripeの発現を用いて、異なる時間帯で活動した細胞群をそれぞれ個別にラベルする手法の開発を行った。 今後は、嗅覚と味覚の感覚情報がそれぞれaSP2神経の活動にどのような影響を及ぼすのかを解析し、感覚情報統合の機構をさらに明らかにする計画である。また、aSP2神経の活動が変化することで、下流神経の活動がどのように制御されるかを解析し、神経回路レベルでの性行動制御機構の理解を目指す。
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