研究課題/領域番号 |
18K14814
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
臼井 紀好 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (00784076)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会環境 / 社会性 / エピジェネティクス / トランスクリプトーム / 神経細胞 / グリア細胞 / 環境要因 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
本研究は幼少期の乏しい社会環境が脳の発達と社会性の獲得に悪影響を与えるメカニズムを解明するため、離乳後より長期間の隔離を行なった社会隔離マウスの前頭前皮質に着目し、社会隔離(環境要因)によってエピジェネティックに影響を受ける遺伝子群の同定、及び神経細胞・グリア細胞を同定することを目的とした。 平成30年度は、社会隔離マウスの前頭前皮質におけるDNAのメチル化解析とRNAを用いた遺伝子発現解析を行い、社会隔離によってエピジェネティックに影響を受ける遺伝子群の同定を行った。生後51日齢のマウス前頭前皮質からゲノムDNAとトータルRNAの同時抽出を行い、ゲノムDNAはDNAメチル化修飾を同定するためMBD(Methyl-CpG Binding Domain)シークエンスに、トータルRNAは遺伝子発現の変化を解析するためmRNAシークエンスに用いた。MBDシークエンスの結果は現在解析中であるが、mRNAシークエンスの結果、社会隔離マウスの前頭前皮質では15個の遺伝子の発現が有意に変動することを見出した。これらの遺伝子には自閉スペクトラム症関連遺伝子が含まれており、社会性との関連が示唆された。遺伝子オントロジー解析の結果から、これらの遺伝子の機能は主に遺伝子発現制御やストレス応答、シナプス機能に関わることが示唆され、ストレス関連や睡眠障害などの疾患に関わることも示唆された。 今後は引き続きBDシークエンス結果の解析を行いつつ、社会隔離マウスの脳組織解析を行う。また、最も有意に変動した遺伝子GeneS15のノックアウトマウスを用いて、脳の発達と社会性行動における表現型の解析を行う計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は次世代シークエンスによる遺伝子発現解析を中心に研究を遂行した。 生後51日齢の社会隔離マウス前頭皮質からゲノムDNAとトータルRNAの同時抽出したゲノムDNAを用い、DNAメチル化修飾を同定するためMBDシークエンスを行った。メチル化シトシンに特異的に結合するMBD2タンパク質をリガンドとし、MBD2抗体によりメチル化領域のDNA断片を回収したのちシークエンスライブラリー作製とシークエンスを行った。各群3個体を用い、各サンプルとも十分なリード数を得ることができた。現在はデータ解析を行っている段階であり、幼少期ストレスによってエピジェネティックに影響を受ける遺伝子群を同定しつつある。 次に、同時抽出を行ったトータルRNAを用い、遺伝子発現の変化を解析するためmRNAシークエンスを行った。トータルRNAからpolyAビーズによりmRNAを精製したのちシークエンスライブラリー作製とシークエンスを行った。データ解析は遺伝子発現変動解析、遺伝子オントロジー解析を行い、遺伝子の機能、関連するシグナル経路、関連する疾患と既知の情報を得た。各群3個体をシークエンスに用いた。データ解析の結果、15個の遺伝子の発現が有意に変動することを見出した。これらの遺伝子には自閉スペクトラム症関連遺伝子が含まれており、社会性との関連が示唆された。また、遺伝子オントロジー解析の結果から、これらの遺伝子の機能は主に遺伝子発現制御やストレス応答、シナプス機能に関わることが示唆され、ストレス関連や睡眠障害などの疾患に関わることも示唆された。 これらの結果から先行して、最も有意に遺伝子発現が変動した遺伝子GeneS15のノックアウトマウスの導入を行えたことから、MBDシークエンスのデータ解析に若干遅れが生じているものの、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度はMBDシークエンスのデータ解析を完了させ、mRNAシークエンスの結果と統合することで社会隔離によってエピジェネティックに影響を受ける遺伝子群の同定を行う。また、これらの遺伝子の発現を別個体の社会隔離マウスの前頭皮質を用い、定量PCRによる遺伝子発現解析を行うことでmRNAシークエンス結果の再現性を検証する。 次に、社会隔離マウスの脳組織解析を行い、社会隔離によって影響を受けるグリア細胞、及び神経細胞について解析を行う。グリア細胞についてはオリゴデンドロサイト、アストロサイト、ミクログリアの各マーカーを用いた免疫組織染色を行い、それぞれの細胞数を定量する。同様に、神経細胞についても神経細胞マーカーを用いた免疫組織染色を行い、細胞数の定量を行う。さらに、ニッスル染色や神経細胞マーカーを用いた免疫染色を行い、大脳皮質の層構造についても解析を行う。また、遺伝子発現解析によって同定した遺伝子についても市販の抗体が入手できる場合は免疫染色を行い、脳における発現部位を明らかにする。以上から、社会隔離(環境要因)によってエピジェネティックに影響を受けるグリア細胞、及び神経細胞の同定を行う。 最後に、本研究によって同定した遺伝子GeneS15のノックアウトマウスの表現型を解析することで幼少期の乏しい社会環境が脳の発達と社会性の獲得に悪影響を与えるメカニズムの解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に生まれたマウスの遺伝子診断受託解析用に残しておいたが、喰殺で匹数が減ったため予算執行が難しいと判断して次年度に繰り越すことにした。
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