研究課題
生体のエネルギー通貨ATPは、細胞外へ放出されて細胞間情報伝達物質として機能する。脳卒中等の、脳虚血障害時にも細胞外ATPの上昇が起こるが、これは傷害を受けた細胞からの漏出であり、これまで脳に対して傷害性に働くと考えられていた。我々は、ATP開口放出の必須分子である小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)が、脳虚血後ミクログリアで発現亢進すること、VNUT欠損マウスは虚血に脆弱であることを見出した。本研究は、脳虚血後にミクログリアがATPを漏出ではなく開口放出により細胞外に放出することで、むしろ脳保護作用を引き起こす、との仮説を提唱し、その検証及び脳保護作用の分子メカニズムの解明に取り組んだ。中大脳動脈閉塞(MCAO)にてマウス脳梗塞モデルを作製し、マイクロダイアリシスを用いて虚血後の細胞外ATP濃度を測定したところ、野生型マウスは虚血前と比較して5倍程度上昇していた。一方、VNUT欠損マウスでは虚血後のATP濃度上昇は起こらなかった。また、非選択的ATP受容体阻害薬suraminあるいはATPの代謝産物であるアデノシンの受容体であるA2A受容体の阻害薬SCH58261の投与により、MCAOによって惹起される脳梗塞傷害が顕著に悪化した。これらのことから、虚血後のミクログリアはVNUTを介してATPを放出し、ATP受容体あるいはA2A受容体を介して脳保護作用をもたらすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
脳虚血障害に対するミクログリアVNUTによる保護作用とその分子メカニズムの一端を明らかにすることができており、本研究は順調に進展している。
引き続き、脳虚血障害に対するミクログリアVNUTによる保護作用とその分子メカニズムの解析を行う。特に、ミクログリアにおけるVNUT発現亢進メカニズムの解析を中心に研究を進める。
他大学から異動してきたため、動物実験の申請やセットアップに時間がかかり、予定よりも実験量が少なくなった。次年度は実験量を増やし、本研究を円滑に進めていく。翌年度分の費用について、動物実験や細胞培養実験に使用する消耗品、試薬等の物品費(1,516,022円)、学会・研究会・ミーティングに参加するときの旅費(376,020円)、論文校正等で使用する人件費・謝金(100,000円)、その他(62,200円)に使用し、研究を進める。
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