研究課題/領域番号 |
18K14819
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中澤 直高 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (90800780)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ニューロン遊走 / メカノバイオロジー / 細胞核 |
研究実績の概要 |
多数の細胞が秩序正しく重層した脳構造は、ニューロン遊走によって形成される。ニューロン遊走に必須な細胞核移動を詳細に観察すると、著しい変形を伴って核が細胞質内を前進することが分かった。申請者の予備実験によりニューロン核の弾性率が低い(柔らかい)状態に調節されることで、核移動が促進されている可能性が示唆された。一方で、その柔らかさゆえに、外部より受ける機械的ストレスが増大した結果、細胞核内でDNAの損傷、修復が起こる可能性も示唆された。そこで本研究は、遊走中のニューロンがもつ細胞核の弾性率調節機構、およびDNA保護の機構を明らかにすることを目的としている。ニューロン核がもつ弾性率の調節機構を明らかとするために、細胞核移動前、移動中、移動後の発生ステージにある小脳よりニューロンを単離し、細胞核膜に局在する分子のタンパク質レベルを確認した。その結果、細胞核ラミナを構成するLaminAタンパク質のタンパク質レベルが細胞核移動後に上昇することを見出した。これが遺伝子の発現調節によるものであるかを確かめるために、同様の発生ステージにおけるLaminA遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCR法によって解析した。その結果、このタンパク質レベルの変化はLaminA遺伝子の発現調節によるものであることが示唆された。一方、LaminAタンパク質と細胞核移動の関連を検証するため、細胞核移動前のニューロンにおいてLaminA遺伝子を強制発現し、生体内におけるニューロン核の移動が阻害されるかどうかを検証した。その結果、コントロールと比較して、細胞核移動が阻害されることを見出した。一方、自身の細胞体より狭い間隙をもつ基板に単離した遊走ニューロンを播種し、遊走させると狭い間隙を通過した後にDNA損傷マーカーが上昇することを確認した。またこのDNA損傷は24時間後には修復されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニューロン核移動中の弾性率調節に寄与する分子が明らかとなったため。ニューロン核の弾性率はLaminA遺伝子の発現調節によってコントロールされている可能性が見出され、今後詳細な分子機構を調べていくための足がかりをつかむことができため今後の研究推進の方向性が定まった。また、狭い間隙を通過するニューロンにおいてDNA損傷マーカーの上昇、およびその後修復がみられたため、ニューロンがもつ柔らかい細胞核において機械的なストレスによってDNA損傷を受けることが示唆された。これまでに、損傷の種類および修復に関わる分子の同定を試みており、研究の方向性が定まりつつある。計画していたマイクパターン基板の新規作製に関して、条件検討に若干時間がかかってしまったが、研究協力者との共同作業によりこの問題を克服できたため、今年度以降さらに計画通りの研究を遂行する。
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今後の研究の推進方策 |
ニューロン核移動中のLaminA遺伝子の発現調節の分子機構を調べていく。また、製作中のマイクロパターンを用いて機械的なストレスによるニューロン核内のDNA損傷、修復の動態を調べることで、両者の時空間的な関連を調べる。並行して、これらの修復に関わる分子機構を明らかとする。一方、これまでに、小脳発生過程においてLaminBreceptorタンパク質レベルがLaminAタンパク質レベルと逆の相関を示すことを見出している。両者は、細胞核内膜にクロマチンをアンカーする機能をもつため、これらのダイナミクスの変化が協調的に働くことで細胞核内のクロマチンのダイナミクスも変化することが予想される。細胞核弾性率の調節、DNA損傷、クロマチンダイナミクス、それぞれの関連も検証しつつ、計画書通りに研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に計画していたマイクパターン基板の作製計画に若干の変更があったため。使用予定であった機器がマイクロパターン基板作製に十分でないことが分かったため、新しい機器をすみやかに購入して計画していた研究を進める。
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