研究課題/領域番号 |
18K14820
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松田 泰斗 九州大学, 医学研究院, 助教 (10756993)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / エイジング / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
マウスおよびヒトの海馬に存在する神経幹細胞は、生涯にわたってニューロンを産生することで、学習・記憶の維持に貢献している。この海馬神経幹細胞の増殖能は加齢に伴って低下し、その結果ニューロン新生が減少することが、老化に伴う記憶・学習能力低下の原因の一つと考えられている。これまでに、神経幹細胞を取り巻く細胞群の挙動の変化は、加齢に伴う神経幹細胞の機能低下 (神経幹細胞エイジング) を引き起こす原因であることが明らかにされてきたものの、神経幹細胞自身の遺伝子発現を調節する転写因子群ネットワークやエピジェネティクスが、どのように破綻しているのかは、わかっていない。 申請者は、これまでに、幼齢期、若齢期、中齢期の Nestin-EGFP マウス海馬から、EGFP の蛍光を指標に神経幹細胞を単離し、RNA-seq 解析を実施した。その結果、加齢に伴って有意に発現上昇・低下する遺伝子 (それぞれn=232とn=48) を同定した。転写因子ネットワークによる細胞運命制御機構が近年明らかになってきていることを考慮して、本研究では、これらの遺伝子のうち転写因子に着目した。そのため、ここで得られた候補因子は、発現上昇した転写因子13個と、発現低下した転写因子6個であった。さらなる絞り込みのため、in vitroにおいて神経幹細胞増殖能評価、SA-β-gal 染色、老化関連遺伝子発現解析を実施した。その結果、1つのエピジェネティクス制御因子が候補として浮上した。今後、この候補因子の発現を成体海馬神経幹細胞において制御することで、神経幹細胞機能低下のメカニズムを解明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に神経幹細胞機能低下を誘導する候補因子選定を終えており、計画通り進展している。今後、成体海馬神経幹細胞で候補因子の発現を制御し、その機能を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)海馬の神経幹細胞エイジングを誘発する因子の同定 選定した候補因子が in vivo において、神経幹細胞エイジングに関与するのかどうかを明らかにするために、レトロウイルスを用いて、幼齢期の海馬の神経幹細胞で候補因子を過剰発現あるいは発現抑制する。その後、加齢に伴う段階的な神経幹細胞の増殖能及びニューロン新生能低下が改善するのかどうかを免疫染色により検討する。さらに、高齢期 (48週) の海馬神経幹細胞で候補因子を過剰発現あるいは発現抑制した場合、神経幹細胞の増殖能及びニューロン新生能の増加、すなわち若返りが認められるかどうかも確認する。また、レトロウイルスに感染した細胞を EGFP で標識、FACS により単離し、RNA-seq 解析を行うことで、神経幹細胞エイジングと若返りを評価する。この RNA-seq 解析を用いて特に、幼齢期の海馬の神経幹細胞において候補因子を過剰発現あるいは発現抑制した場合、中齢期の海馬神経幹細胞で認められるタンパク質分解機構や栄養感受性、ミトコンドリア機能に関連する老化特性遺伝子の変動が抑えられるのかどうかを評価する。これらに加えて、同定した因子を欠損あるいは過剰発現する遺伝子改変マウスを入手し (入手困難な場合は受託作製)、同様の解析を行う。また、任意の時期に候補因子の発現を操作するシステムも導入する。例えば、申請者はすでに Nestin-CreERT2 マウスを保有しているため、Flox マウスを入手あるいは作製すると、神経幹細胞において時期特異的な遺伝子欠損が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想よりも研究が順調に進展し、予定した使用額全てを使う必要がなかったため、次年度使用額が生じた。
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