研究課題
嗅覚の一次中枢である嗅球では、成体でもニューロンの細胞死およびそれに続くニューロン再生が生じている。研究代表者らはこれまでに、2光子顕微鏡を用いた嗅球ニューロンのin vivoイメージング法を確立し、ニューロンが死んだ場所で同じ種類のニューロンが再生するという嗅覚入力依存的メカニズムを報告した。さらに、嗅球の血管近傍に存在するミクログリアが、死んだニューロンを貪食することでニューロン再生を促進することを示唆するデータを得た。本研究では、感覚入力依存的なニューロン再生において、ミクログリアによる死細胞の貪食が果たす役割を解明し、その生物学的意義を明らかにすることを目的とする。R1年度は、まず、ミクログリアによる死細胞の貪食がニューロン再生に果たす役割を明らかにするために、嗅球ミクログリアによる死細胞の貪食を特異的に抑制する実験系を構築し、嗅球ニューロンの再生に与える影響について詳細に解析した。次に、ミクログリアによる死んだニューロンの貪食がニューロン再生を促進するメカニズムについて、責任因子を探索し、その候補群のin vitro およびin vivoにおける発現解析をおこなった。さらに、ミクログリアによる死細胞の貪食が嗅覚機能に与える影響を調べるための嗅覚行動試験を確立した。上記の結果から、嗅球においてミクログリアが死んだニューロンを貪食し、その後のニューロン再生に重要な役割を果たすことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
R1年度は、ミクログリアによる死細胞の貪食のニューロン再生における役割を明らかにし、当初予定していた通りに計画を遂行した。また、ミクログリアによる死細胞の貪食がニューロン再生を促進するメカニズムとして、責任因子の候補を同定し、その発現パターンを明らかにした。これらの成果に加えて、次年度(R2年度)に計画している嗅覚行動実験を複数確立し、ミクログリアによる死細胞の貪食抑制の影響を調べることが可能になっている。したがって、R1年度の目的の達成度としては、当初の計画以上に進展していると判断した。
R1年度の研究成果をもとに、今後は、成体嗅球のニューロン再生および嗅覚機能におけるミクログリアによる死細胞の貪食の役割を明らかにするための実験を実施する予定である。さらに、ミクログリアによる死細胞の貪食がニューロン再生を促進するメカニズムについて、責任因子の候補の機能解析を実施することでその機序を解明する予定である。これらの実験から、成体脳のニューロン再生において、ミクログリアによる死細胞の貪食の生物学的意義を明らかにする。
既存の試薬等を活用したため予定していた物品の購入の一部を行わなかった。また、新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴う出張停止措置に伴い、予定より出張の機会が少なかった。次年度の物品費および出張費等に充てる予定である。
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The Journal of Neuroscience
巻: 39 ページ: 9967-9988
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1503-19.2019
http://k-sawamoto.com