研究実績の概要 |
ゼブラフィッシュは高い再生能力を持つことが報告されてきたが、これまでに作製したゼブラフィッシュ中脳損傷モデルではラジアルグリアが神経幹細胞として組織再生に寄与し、Wntシグナルの活性化が必要であることを明らかにした(Shimizu et al., Glia, 2018)。また、Notch, Shhシグナルに関しても中脳の組織再生に寄与することを明らかにした(Ueda et al., J Comp. Neurol, 2018)。本研究課題ではさらに中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析および機能解析を行い脊椎動物の神経再生を制御する分子基盤の解明を目指すものである。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:損傷後における発現変動遺伝子を解析するために、非損傷脳および損傷6, 12, 24時間後においてRNA-seqを行った。先行研究で解析を進めてきた、Wnt、Notchシグナルの変化や細胞死・炎症反応に関わるシグナル経路の変化がGO解析に確認され、非損傷脳と比較して損傷6, 12, 24時間後に増加した遺伝子数(FC 2以上, FDR 0.05以下)はそれぞれ1028, 1209, 1861個、減少した遺伝子数(FC 0.5以下, FDR 0.05以下)は499, 193, 230個となった。今回のRNA-seqは1細胞レベルではなく組織レベルの解析となったが、データベースに登録されているラジアルグリア集団やマイクログリア集団のRNA-seqのデータと比較解析により、ラジアルグリアにおける発現変動の推定・絞り込みを行った。 2)ゼブラフィッシュおよびマウスを用いた遺伝子の機能解析:候補遺伝子の機能を解析する実験系であるゼブラフィッシュの成体脳を用いたin vivoの系とマウスの初代培養やcell lineを用いたin vitroの系の確立を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では以下の3つの研究、を通じて脊椎動物の成体脳の再生を制御する分子機能の解明を目指すものである。本年度は網羅的遺伝子の発現解析による解析候補遺伝子の絞り込み、およびゼブラフィッシュとマウスを用いた候補遺伝子の機能解析系の構築を行った。以下にその詳細を述べる。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:RNA-seqにより網羅的な遺伝子発現の定量化および損傷後の時系列ごとの発現変動遺伝子を同定した。また、データベースからラジアルグリア集団(Giaimo et al., 2018)やマイクログリア集団(Oosterhof et a., 2017)、網膜再生(Sifuentes et a., 2016)に関する遺伝子発現を解析し、本実験で得られた変動遺伝子の絞り込みを行った。今回のRNA-seqは1細胞レベルではなく組織レベルの解析となったが、損傷直後の遺伝子発現変化を広く捉えることができ、今後の解析のベースとなる重要なデータを得ることが出来た。各タイムポイントで数百から千数百の発現変動遺伝子が検出されたが、時系列や組織ごとに特徴付けることにより、十数の遺伝子にまで解析候補遺伝子の絞り込みを行った。また、機能が未解明な新規遺伝子の発現変動も検出することができ、今後の解析対象として絞り込みを進めている。 2)ゼブラフィッシュを用いた候補遺伝子の機能解析:ゼブラフィッシュを用いた遺伝子の機能解析に関しては、脳脊髄液にアンチセンスオリゴなどを投与する実験系が機能するか確認することが出来た。今後は解析候補遺伝子のノックダウン実験を進める予定である。 3)マウスなど哺乳類における遺伝子の機能解析:マウスなどのin vitro系を用いた遺伝子の機能解析については培養方法の確認や遺伝子の導入法の検討を行った。また、神経幹細胞の増殖や分化を評価する方法の検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
損傷モデルでの発現変動遺伝子解析および生物種間の比較より絞り込んだ候補遺伝子について、以下の3つの研究を通じてゼブラフィッシュおよびマウスにおける機能解明を目指す。 1)中脳損傷モデルを用いた網羅的な遺伝子発現解析:ゼブラフィッシュにおいて損傷後の発現変動の確認を損傷6, 12, 24時間後とおよび2, 3, 7日後で行う。 2)ゼブラフィッシュを用いた候補遺伝子の機能解析:ゼブラフィッシュ成体脳を用いて、発現が増加した候補遺伝子の機能を解析する。損傷後の神経幹細胞の増殖・分化における機能を解析するために、損傷後にアンチセンスオリゴを脳脊髄液に投与し、損傷2日後および7日後において神経幹細胞の増殖や分化を免疫染色により評価する。組織レベルでのRNA-seqを行ったため、サイトカインなどの分泌因子の発現変動も検出することが出来ており、神経幹細胞特異的な発現変動にこだわらず、マイクログリアなどの炎症関連細胞に関連する分泌因子の機能解析を検討する。リコンビナントタンパク質を脳脊髄液に投与することで、神経幹細胞の増殖や分化に与える影響を解析することが可能である。 3)マウスなど哺乳類における遺伝子の機能解析:マウス成体脳を用いたニューロスフィア・アッセイ系やcell lineを用いて候補遺伝子の神経幹細胞の増殖・分化における機能を解析する。ニューロスフィア形成後にnestinプロモータを用いて神経幹細胞に候補遺伝子を導入し、2次ニューロスフィアの形成や分化誘導後の神経細胞の割合などを評価することで機能解明を目指す。サイトカインなどの分泌因子についても培養液に添加することでマウスなど哺乳類を用いたin vitroの系で機能を解析することが可能となる。 ゼブラフィッシュおよびマウスを用いた解析を行い、生物種間の共通点・相違点を明らかにし、脊椎動物の成体脳の再生を制御する分子基盤の解明を目指す。
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