研究課題/領域番号 |
18K14828
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤田 生水 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (80615138)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Aspm / 小頭症 / LGN / 紡錘体角度 / oRG / 接着結合 / 神経発生 / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
小頭症原因遺伝子Aspmの変異マウスにおいて大脳皮質発生期に細胞死が起きることが分かっている。これまでの研究で、頂端構造を失った神経幹細胞であるoRGをマウスにおいて人工的に誘導することにより、Aspm変異による細胞死が非常に増加することを見出した。LGN変異による紡錘体角度の擾乱によってoRGを誘導することができるが、その効果は大脳皮質発生後期(神経産生期)に限定され、発生初期の増殖期には見られない。本年度はこの仕組みを明らかにした。RGの分裂において、紡錘体角度が頂端面に対して水平に形成されることで、両娘細胞が頂端面を受け継ぐことができ、RGの上皮構造が保たれる。LGN変異によって紡錘体角度が擾乱されると、一部の娘細胞が頂端面を失い、oRGへと転じる。発生期大脳皮質のタイムラプス観察により、LGN変異マウスの増殖期においてもRGの紡錘体角度は擾乱され、頂端面の喪失が起きていることが確認された。ところが、増殖期において頂端面を失った細胞は、新たに頂端側に突起を伸ばし、頂端構造を再形成した。新たに伸張する突起の先端には周囲の細胞との間に接着結合が見られたため、周囲の細胞を足場として頂端面まで到達していることが示唆された。増殖期のRGは、この頂端構造の再生能を持つことで、紡錘体角度が擾乱されてもoRGに転じないと考えられる。発生ステージを追ってこの現象を観察したところ、頂端構造の再生能は発生が進むにつれて減弱することが分かった。これはoRGが大脳皮質発生後期に産生される理由の一つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究は、神経幹細胞の形態的な可塑性という新たな側面を明らかにしただけでなく、Aspm LGN二重変異マウスが重篤な小頭症を引き起こす原因を解明するために欠かすことができない知見をもたらした。本研究成果は、Aspm変異マウスにおける細胞死の誘導がoRGの産生によって増強されるという解釈を支持するものである。 一方で、上皮形態再生能の解明に多くのエフォートを割いたため、本研究課題の主目標であるAspm変異による紡錘体形成異常から細胞死へと至る過程の解明までには至らず、研究期間を延長した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はAspm LGN二重変異マウスにおけるタイムラプス観察によって、細胞の動的振る舞い、特に細胞形態と細胞死の関連を解析する。シングルセルCNV解析等を行い、紡錘体形成異常と染色体不安定性、細胞死との関連を調べる。またシングルセル遺伝子発現解析によって、細胞死を引き起こすシグナル経路の同定を目指す。 他のグループからAspmノックアウトフェレットが報告されたことから、本研究で進めているフェレットにおけるCRISPR/Cas9を用いたAspmノックアウト実験の新規性が失われつつある。並行してAspm変異ヒトiPS細胞から作製する大脳オルガノイドの準備を進めており、oRGを持つ哺乳類における細胞動態レベルの解析に用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は論文執筆及び改定作業を優先し、主要な実験の予定を次年度に繰り越したため。
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