研究課題/領域番号 |
18K14835
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
新田 陽平 新潟大学, 研究推進機構, 日本学術振興会特別研究員 (30800429)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 脂質代謝 / キノコ体 / CDP-DAG / PIP2 / 神経変性 |
研究実績の概要 |
前年度の研究によって、リン脂質代謝回路の一翼をCDP-ジアシルグリセロール(CDP-DAG)合成酵素であるCdsAの機能欠失変異体ではキノコ体神経細胞で神経変性が誘導されることを見出し、同回路で下流に位置し、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸 (PI(4,5)P2)を合成するPI4P5Kを抑制した時にもCdsAをノックダウンしたときと同様の神経変性が確認された。しかし、神経変性を誘導する実行因子については同定できていなかった。本年度では、CdsAと共にCa2+要求性プロテアーゼの一種であるカルパインAをノックダウンすると神経変性が有意に抑制されることを見出した。カルパインBをノックダウンしても神経変性は抑制されなかったことから、カルパインAが特異的に変性を誘導している可能性を示唆している。また、CdsAの機能欠失による神経変性が発生期の異常に由来するのか正常発生後の維持機構の破綻に由来するのか区別するために、Gal4の機能を阻害するGal80の温度感受性変異体であるGal80tsを用いて時期特異的にCdsAをノックダウンした。その結果、正常発生後にCdsAをノックダウンしても変性が生じず、発生中の特定の時期(蛹化後24時間前後)にCdsAをノックダウンすると変性が生じることが明らかとなった。この時期では、キノコ体構造は見かけ上正常であるため、未知の発生機構が破綻したあとに時間差で軸索変性が始まることを意味している。その他に、PI(4,5)P2が関与する新規の神経変性機構を明らかにする為にPI(4,5)P2と結合するタンパク質を標的とした網羅的スクリーニングを現在行っており、複数の候補遺伝子を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CdsAの機能異常によって見いだされた神経変性が、神経細胞の維持機構の破綻ではなく神経発生の異常に由来することは予想外であった。しかし、神経変性を引き起こす実行因子の候補を得ることが出来たこと、PI(4,5)P2の下流候補が既に複数得られていることから分子機構の解明が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で実行因子の候補として見いだされたカルパインAが実際に変性に関与しているか明らかにする。具体的には、カルパインAをキノコ体特異的に過剰発現し同様の変性が生じるか確認する。カルパインが機能するにはCa2+が必要であるため、TrpA1などを共発現する事によって人為的にキノコ体神経内のCa2+濃度をあげる必要がある。また、CdsAのノックダウンによって発生中のキノコ体神経のCa2+濃度が上昇するのかCa2+インジケーターであるGCaMPを用いて確かめる。これらの実験によって、カルパインAが神経変性の実行因子であるか明らかにする。また、PI(4,5)P2の下流を探索するRNAiスクリーニングも引き続き行う。候補因子に対してキノコ体神経におけるPI(4,5)P2との結合性を検証すると同時に、カルパインAとの関係性を明らかにする。これらの研究によって、CdsAによる神経変性メカニズムの全貌の解明が期待できる。 また、CdsAのノックダウンによってPI(4,5)P2が減少する事をキノコ体神経でも確認するために引き続き共焦点ラマン顕微鏡等を用いて明らかにする。ラマン顕微鏡による脂質の同定が上手く行かない場合は質量分析法やELISAなどを用いて組織レベルでPI(4,5)P2を定量する。
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次年度使用額が生じた理由 |
質量分析を外部に委託する予定であったが、本解析の前にデモ解析を行った結果、本研究で用いる試料がごく微量であるため通常の条件では脂質を計測することが難しいことが明らかとなった。質量分析の条件検討に時間がかかり次年度まで持ち越しとなった為、未使用額が生じた。この未使用額は質量分析やその条件検討に使用する予定である。
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