研究成果の概要 |
脂質代謝異常によって年齢依存的に神経細胞が軸索先端から変性する分子機構の解明を試みた。時期特異的にリン脂質の代謝異常を起こす実験によって、神経が分化直後に脂質代謝の異常が起きるとその後の伸長・投射までは正常に行われるものの神経細胞の形態を維持することが出来ずに軸索末端から変性が始まることを見出した。そして、遺伝学的解析によって、この現象はホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸(PI(4,5)P2)の減少が原因であることを突き止めた。PI(4,5)P2の代謝酵素であるPI3K及びPLCは関与していないため、未知の分子機構がこの現象を制御している可能性を示唆している。
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
本研究によって、分化直後の神経細胞が頑健性を獲得するのにリン脂質の代謝が必須なことが明らかとなった。この現象は細胞膜に局在するリン脂質の1つであるPI(4,5)P2が関与している。興味深いことに神経細胞の発生が完了した後にPI(4,5)P2を減少させても変性が観察されなかったことから、PI(4,5)P2依存的かつ時期特異的な神経細胞の頑健性獲得メカニズムの存在を強く示唆している。神経変性疾患においても、神経細胞のリン脂質の組成が異常になることが知られており、本研究によって提供される知見によって神経細胞変性の抑制が期待できる。
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