研究課題/領域番号 |
18K14837
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 巧 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (50793858)
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研究期間 (年度) |
2021-03-01 – 2023-03-31
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キーワード | 発生・分化 / 細胞間相互作用 / 神経前駆細胞 |
研究実績の概要 |
胎生期の哺乳類大脳において、神経前駆細胞から生産された娘細胞は周囲の分化細胞との接触を介したDelta-Notchシグナル伝達を利用して、「分化」か「未分化」の運命選択を行う。従来、そのシグナル伝達は直近の隣接細胞間のみで行われる狭い範囲のものが想定されてきた。しかし最近、遠方の細胞にまで到達する葉状仮足を新規に発見したことで、そのやり取りはより広範囲に渡る可能性が見出された。 免疫電顕による超微構造解析で、Deltaは分化細胞の葉状仮足に強く局在していることが明らかとなった。同時に、仮足は分化細胞に限らず未分化細胞にも認められ、その到達範囲、接触細胞数、接触面積を計測した結果、これまで推測されてきた細胞間の接触範囲よりも大きいことが分かった。さらに、タイムラプス観察にて仮足の動態を調べると、その動きは活発で、伸長と退縮を頻繁に行い、さらにその突出位置を時事刻々と変化させることが分かった。仮足の形成の仕組みを明らかにするために、ある細胞骨格系タンパク質を薬剤にて阻害した。その結果、活発な仮足の動きは失われ、その形状のほとんどが短く、退縮あるいは消失が認められた。また、仮足形成に関連のある別の遺伝子の機能を抑えた場合でも(shRNA、CRISPR-Cas9システム)、薬剤実験と同様の結果が得られた。 仮説として、仮足を介した接触がシグナル伝達に寄与するのであれば、人為的に仮足を失わせた時に、やや遠方の娘細胞はDeltaシグナルを受け取れず、その多くが「分化」を選択する可能性がある。これを検証するために、先述した実験系を用いて仮足を消失させ、分化の初期段階で発現する転写因子Tbr2の陽性率を調べた。その結果、娘細胞が分化を呈する割合が有意に増加することが分かった。このことから、葉状仮足を介した遠隔的な細胞間接触は娘細胞の運命選択に影響を及ぼすひとつの要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
葉状仮足の形成と動態に関連する因子の特定に至り、その機能を阻害することで、人為的に仮足を消失させることに成功した。これにより、仮説である「仮足を介した遠隔的なシグナル伝達」の検証にアプローチできた。
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今後の研究の推進方策 |
葉状仮足を介した遠隔的な細胞間接触と娘細胞の運命選択の関係性を調べるために、既存の側方抑制モデルを基礎とした数理モデルを作製する。このモデルで運命選択が再現できれば、Delta-Notchシグナル伝達がいかにして分化細胞の生産数を調整しているのかといった、組織全体における細胞生産様式の理解に繋がる。得られた成果を論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析用のコンピュータおよびソフトウェアの購入にあたり、昨今の半導体不足の影響で価格が高騰し、本年度分の残高ではまかなえなかったため当該助成金が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせ、当初より購入計画のあった実験機器に加えて、当該コンピュータおよびソフトウェアの購入を計画している。
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