Adenomatous polyposis coli (Apc)遺伝子は、家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis: FAP)の原因遺伝子として発見された大腸癌抑制遺伝子である。APCには、様々なタンパク質が結合する。APCは大腸のみならず脳にも多く発現しているが、脳におけるAPCの機能はよく分かっていない。本研究では、野生型APCマウスと癌抑制に関与しない1639番目以降のアミノ酸が欠損した変異APC(APC1638T)タンパク質を発現するAPC1638Tマウスの海馬神経ネットワークを調べて、海馬神経ネットワーク形成におけるAPCの機能を明らかにする。 抗MAP2抗体(樹状突起マーカー抗体)を用いた免疫染色を施したパラフィン切片を光-電子相関顕微鏡解析(同一部位を光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察する解析)して、野生型APCマウスとAPC1638Tマウスの海馬神経細胞の樹状突起の太さの違いを調べた。APC1638Tマウスの樹状突起は野生型APCマウスと比べて、樹状突起の太さが細い傾向がみられた。 抗APC抗体と抗PSD-95抗体を用いた免疫電顕解析を行い、野生型APCマウスとAPC1638Tマウスの海馬神経細胞の後シナプスにおけるAPCとPSD-95の局在を調べた。野生型APCマウス海馬の後シナプスでは、APCとPSD-95が共局在していた。APC1638Tマウス海馬の後シナプスでは、APCとPSD-95が発現していたが、共存していなかった。 抗c-Fos抗体(神経興奮マーカー抗体)を用いた免疫染色を行い、野生型APCマウスとAPC1638Tマウスの海馬の活動を調べた。APC1638Tマウス海馬のc-Fos陽性神経細胞数は、野生型APCマウスより有意に少なかった。
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