研究課題/領域番号 |
18K14849
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
船橋 靖広 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (00749913)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シナプス可塑性 / プロテオミクス / リン酸化 / カルシウム / Rhoファミリー / Rho-Kinase / CaMKⅡ / Shank3 |
研究実績の概要 |
グルタミン酸シグナルの下流でリン酸化されるリン酸化基質とそのリン酸化サイトを同定するために、脳線条体領域のスライス培養を用い、高カリウム(KCl)やNMDAによる刺激を行った。続いてリン酸化スレオニンあるいはセリンと結合する14-3-3タンパク質やCheckのFHAドメイン、Pin1のWWドメインを固相化したアフィニティビーズを作製し、スライス抽出液と混合することでリン酸化基質を濃縮した。得られたリン酸化タンパク質をトリプシンにより消化し,質量分析計にてリン酸化ペプチドを網羅的に解析した。その結果、KClやNMDA刺激によりリン酸化が変動する300種類以上のタンパク質およびそのリン酸化部位が同定された。質量分析によって同定されたShank3のリン酸化部位をアラニンに置換した変異体を作成し、In vitro のリン酸化解析を行なった結果、Rho-KinaseによりShank3のSh3-PDZを含む領域 (461-812 aa) がリン酸化され、Shank3のリン酸化部位欠損変異体(T551A/S694A/S781A)では優位にリン酸化が抑制された。次に、Shank3のT551, S694, S781のリン酸化を認識する抗リン酸化抗体を作製し、線条体スライス培養を用いて内在性のShank3のリン酸化の変動を解析した。脱リン酸化酵素阻害剤CalyculinAの処置によりShank3のS551, S694, S781のリン酸化が亢進し、そのリン酸化の亢進はRho-Kinase阻害剤(Y27632)の処置により抑制された。また、KClやNMDA刺激によりShank3のS551, S694, S781のリン酸化が亢進し、そのリン酸化の亢進はY27632の処置により抑制された。したがって、グルタミン酸シグナルの下流でRho-KinaseによりShank3がリン酸化されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、当初予定していた以下の2つの項目について解析を行った。 1. リン酸化プロテオミクス解析によるリン酸化基質の網羅的探索:本年度はグルタミン酸シグナルの下流でリン酸化されるリン酸化基質とそのリン酸化サイトの同定を試みた。脳線条体のスライス培養に高カリウム(KCl)やNMDAによる刺激を行い、その抽出液を14-3-3などのリン酸化タンパク質結合タンパク質を固相化したアフィニティビーズと混合することでリン酸化基質を濃縮した。質量分析計にてリン酸化ペプチドを網羅的に解析した結果、KClやNMDA刺激によりリン酸化が変動する300種類以上のタンパク質およびそのリン酸化部位が同定できた。 2. 神経細胞のシナプス可塑性制御の解析:Rho-Kinaseの基質候補の中で、シナプス後肥厚部の足場タンパク質であるShank3に着目し解析を進めた。In vitro のリン酸化解析を行なった結果、Rho-KinaseによりShank3のSh3-PDZドメインを含む領域がリン酸化され、リン酸化部位欠損変異体(T551A/S694A/S781A)では優位にリン酸化が抑制されることを見出した。次に、Shank3のT551, S694, S781のリン酸化を認識する抗リン酸化抗体の作製を行い、線条体スライス培養を用いて内在性のShank3のリン酸化の変動を解析した。CalyculinAの処置によりShank3のS551, S694, S781のリン酸化が亢進し、そのリン酸化の亢進はY27632の処置により抑制されることを示した。また、KClやNMDA刺激によりShank3のT551, S694, S781のリン酸化が亢進し、そのリン酸化の亢進はY27632の処置により抑制されることを示した。 以上のことより、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、以下の3つの項目について解析を行う予定である。 1. リン酸化プロテオミクス解析によるリン酸化基質の網羅的探索:前年度に引き続き、グルタミン酸シグナルの下流でリン酸化されるリン酸化基質とそのリン酸化サイトを同定を行い、それらの同定数を増やしていく。 2. 神経細胞のシナプス可塑性制御の解析:前年度までにCaMKⅡの基質候補として同定した低分子量Gタンパク質の制御因子であるArhGAP21およびArhGAP39について抗リン酸化抗体を作製し、生体内におけるArhGAP21、 ArhGAP39のリン酸化の変動を解析する。また、CaMKⅡによるArhGAP21、ArhGAP39のリン酸化によってそのGAP活性が制御されるかどうかを検討する。Rho-Kinaseの基質として同定したShank3に関して、リン酸化部位変異体を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)あるいはレンチウイルスを作製する。これらのウイルスを用い培養神経細胞やマウス個体にShank3のリン酸化部位変異体を発現させた後、樹状突起スパインの形態やPSD95やDlgap3などの足場タンパク質との相互作用、AMPA型受容体やNMDA型受容体の膜上への局在を解析する。同時に、電気生理学的解析を行い、シナプス可塑性との関連も明らかにする。 3. マウスの情動行動と学習・記憶の解析:AAVやレンチウイルスを用いて、CaMKIIやRho-Kinaseの活性型・不活性型およびこれらのリン酸化基質のリン酸化部位変異体をマウスの側坐核に部位・細胞腫特異的に発現させる。これらのマウスを用いて、条件付け場所嗜好性試験、受動回避試験などの行動解析を行い、情動行動や学習・記憶への影響を評価する。同時に、条件付け学習の際のリン酸化基質のリン酸化状態を免疫組織学的解析やウエスタンブロット解析により評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の試薬・消耗品に関して前年度に購入した分でまかなうことが出来たため、次年度使用額が生じた。 マウスの購入費用やリン酸化抗体作製費用、リン酸化変異体を発現するアデノ随伴ウイルス、レンチウイルスを作製・精製するための消耗品に使用する。 論文の投稿費用や成果を発表するための学会参加費用に使用する。
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