活性酸素は多くの精神・神経疾患の原因として注目されているが、活性酸素の標的となる分子の特定と解析はまだ十分に行われていない。我々は最近、高次脳機能に重要なカルモデュリンキナーゼIV(CaMKIV)が、198番目のシステイン残基チオール基の酸化修飾により活性制御されることを明らかにした。本研究では、活性酸素によるCaMKIVの活性制御機構とそれによる細胞内情報伝達経路への影響を明らかにすることを目的とした。 CaMKIVの活性化に重要なリン酸化および酵素活性は、過酸化水素の処置により濃度依存的に阻害され、この阻害は198番目のシステイン残基(Cys198)を他のアミノ酸に置換するとみられなくなることから、Cys198が活性制御に重要な酸化修飾部位であることを明らかにした。CaMKIVのCys198を含むペプチドの質量分析により、過酸化水素処置による分子間のジスルフィド結合が検出された。CaMKIV過剰発現細胞を用いた検討により、過酸化水素処置した細胞においてもCaMKIVのリン酸化および酵素活性はCys198依存的に阻害されることを明らかにした。内在性のCaMKIV発現量が多いヒト白血病T細胞株やラット小脳顆粒神経細胞初代培養系にて、過酸化水素処置によりCaMKIVのリン酸化が阻害され、さらにCaMKIVの下流分子であるcAMP応答配列結合タンパク質(CREB)のリン酸化が阻害されることを明らかにした。過酸化水素が産生される条件として、小胞体ストレスを誘導したCaMKIV過剰発現細胞において、CaMKIVのリン酸化はCys198依存的に阻害され、過酸化水素代謝系を阻害することによってもCaMKIVおよびCREBのリン酸化が阻害されることを明らかにした。
|