本研究では、特定の体部位に対する侵害刺激による痛みの程度を、誘発された逃避行動から定量評価し、さらにそれに関わる上位中枢神経系の役割を解明することを目指している。痛みを定量評価することは除痛(鎮痛)効果を測る上で重要であるが、実験動物において定量評価することは非常に難しい。 そこで、近赤外レーザーによる痛覚刺激に誘発される逃避行動を、多点カメラからの画像解析により定量的に観察するシステムを用いて、大脳皮質の特定領域の神経活動と逃避行動の関係を調べた。その結果、前年度までに得られたデータから、主に触覚などの体性感覚を処理している大脳皮質一次体性感覚野に存在するDysgranular領域の活動が痛覚受容に基づく逃避行動の誘発に寄与していることが分かった。本年度はさらに詳細な解析を行い、特に逃避スピードに関しては、Dysgranular領域の活動を抑制すると有意な減少が見られることを発見した。反対に、本来痛みを伴わない程度の刺激の際にDysgranular領域を活性化させると逃避スピードが、痛み刺激によるものと同程度に上昇しており、Dysgranular領域の活動が痛み応答と関連していることを示唆している。また、侵害刺激から逃避する際の方向についても同様に、Dysgranular領域の活動を活性化すると、本来痛みを伴わない程度の刺激の際にも痛み刺激から逃避する方向へ向かうことを発見した。 また今回用いたカメラ画像の情報処理技術を応用し、8方向迷路等の一般的に用いられる齧歯類の行動実験システムの計測アルゴリズムを開発した。動いた軌跡を自動で解析することができる他、左右の選択等のバイアスを解析することができる。このアルゴリズムはpythonで記述されており、google colaboratoryによるpython実行環境であればオンライン上でもデータ解析可能となっている。
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