研究課題/領域番号 |
18K14860
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
青木 亮 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (70757137)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 2光子イメージング / 皮質 / マウス / 意思決定 |
研究実績の概要 |
研究計画に従い行動課題中の2光子イメージングによる神経活動記録の取得を行った。さらに取得されたデータから細胞領域の抽出、ニューロピルからの信号の補正、他の生体信号との同期などを含む前処理のプログラムを作り、これらの処理を自動化することでデータ取得の効率が飛躍的に上昇した。 さらに効率的な動物の訓練のため、訓練ステージを複数に分け、段階的に課題を難しくしていくことで学習速度を上昇させることに成功した。もともとの研究計画には含まれていないが、このタスク切り替えの際の神経活動の記録にも成功しており、今後はこの複数の課題間の知識の推移がどのような神経基盤によって担われているのかが明らかになると期待される。 また、赤方偏移型オプシンを用いた神経活動操作についても実験を進めており、一細胞を対象とした信頼性および特異性の高い光刺激方法の確立に成功している。今後は計画の通り、この光刺激技術を行動課題中に適用することで、局所神経回路の変化及び行動の変化を引き起こすことを試みる。 また、カルシウムインジケーター及びオプシンを効率的に発現させる方法についても、遺伝子組み換え系統を用いた方法、ウイルスベクターを用いた方法など、慎重に検討を繰り返し、結果数か月の長期間にわたり同一細胞から活動を記録することが可能になっている。これにより、1細胞レベルで学習に伴う意思決定計算処理の神経基盤の変化を明らかにすることが可能になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にある刺激弁別課題の学習についてはおおむね順調に進んでおり、自動訓練装置を用いた効率的な学習が行われている。一方でその発展的な内容である文脈に応じた行動の変化については学習個体ごとのばらつきが多く、学習が困難なため進捗が遅れている。その一因として、マウスが高齢だと課題のルールの細かい変化に適応するのが難しくなる傾向にあり、文脈の変化などの1セッション内に起こる変化が検出可能な行動の変化を引き起こさない可能性が考えられる。マウスの訓練そのものに数か月単位で時間がかかるという問題はあるものの、今後は可能な限り若齢のマウスを訓練に使用することを試みる。 また、2光子顕微鏡を用いた行動課題中のイメージングについてもおおむね順調に進んでいる。当初は遺伝子組み換え系統のカルシウムインジケーターの発現量が十分でない、ウイルス導入された最新のカルシウムインジケーターが細胞の健康状態に影響を与えるなどの問題があったが、現在では十分な蛍光量で、細胞にダメージなく、長時間イメージングを行うことが可能な条件を同定することに成功している。 またオプシンを用いた神経活動の操作に関しては、当初はレーザー出力の調整が最適化されておらず、過興奮が原因と思われる細胞死を引き起こすなどの問題があったものの、現在ではそのような望ましくない反応を起こさずに目的の神経細胞の活動だけを操作する技術が確立しており、今後は効率的に研究がするめられると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は神経活動操作、特に光刺激側の特異性の改善に注力する。現在光刺激に用いているデジタルマイクロミラー装置は微細なミラーの傾きを制御することでパターン刺激を作り出すが、1光子刺激のため組織深部に到達しにくく、また特異性も低いという問題点がある。この問題を改善すべく、spatial light modulatorを用いたホログラフィック2光子刺激の系を立ち上げる。これはレーザー光の位相をspatial light modulatorを用いて任意の形に変更することで目的とする細胞群にのみ光が集中するようにパターン刺激を作り出すものであり、深部到達度、および解像度の面で優れた手法である。この装置の自作に取り組む。 また行動実験に関しては、引き続き自動訓練装置を用いた学習を進める。 また2光子イメージングによる行動課題中のデータの取得についても当初の研究計画の通り行う予定である。 解析に関しては多細胞集団の同時記録データを利用し主にデコーディングによるアプローチを用いて細胞集団ダイナミクスの類似度を定量する。またgeneralized linear modelを用いたエンコーディングによる各細胞の活動の予測についても解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定であったマウス行動訓練セットアップの規模の拡大について、より効率の良い訓練プロコトルへの改善により十分量の訓練マウスが確保できたため、現状以上の規模の拡大を見送る事になった。それに伴い、規模拡大のために必要な訓練装置の購入費用の必要性が失われた。 次年度は2光子カルシウムイメージング記録取得のための遺伝子組み換えマウスの確保や手術用器具、薬剤およびウイルス作成用の分子生物学的消耗品費など、データの取得のために使用する物品の購入費に充てる予定である。 また、データ解析のためのPCなどのハードウェアやMATLABなどの計算ソフトウェアの購入費に使用することで、研究をより一層効率的に進めることを試みる。
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