研究課題/領域番号 |
18K14866
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上田 善弘 京都大学, 化学研究所, 助教 (90751959)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ケイ素 / 位置選択性 / C-H官能基化 / ナイトレン |
研究実績の概要 |
本研究では、有効な位置選択性制御法の存在しない、配位性配向基を持たない基質の分子間C-H官能基化反応において、ケイ素の特性を利用した位置選択性制御法の創出を目的としている。本研究の遂行により、有機合成化学において合成戦略のパラダイムシフトの可能性のため、一大潮流となっているC-H結合官能基化研究において、独自の手法を構築することを目的とする。これまでのところ、ロジウム二核錯体を触媒として発生させたロジウムナイトレノイドを利用すると、有機ケイ素化合物のシリル基β位選択的にC-Hアミノ化反応が進行することを見出した。これは、遷移状態で生じる部分正電荷がシリル基の立体電子効果により安定化されるためと考えられる。この反応の一般性をさらに拡大することで、有機ケイ素化合物の新たな官能基化法を確立し、これまでビルディングブロックとして想定されなかった化合物の合成利用を可能にする合成手法を提示したい。また、不斉反応への展開も行い、キラル炭素に比べて不斉合成法の未熟なキラルケイ素分子構築法の発展も目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリル基β位の他にも反応性の高いベンジル位や酸素原子α位のC-H結合を有するいくつかの基質においても、β位選択的にアミノ化が進行することを見出した。さらに環内にケイ素原子をするシラシクロアルカン類は非常に高い反応性を有し、基質小過剰でもほぼ定量的に反応が進行することがわかった。不斉反応への展開も既に検討を開始しており、キラルなロジウム二核錯体を触媒として用いると、70%程度のエナンチオ過剰率で光学活性なアミノ化体が得られることがわかった。また、メカニズム解析に関する実験として水素速度論的同位体効果を検証したところ、独立の反応系で測定したものと競合反応系で測定したものの値が異なる値となった。興味深い知見が得られたため、計算化学を含めたさらなるメカニズム解析を行い、律速段階等を見極めたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、前年度に見出したC-Hアミノ化反応が選択的に進行する基質に関して、他の官能基化(C-H酸化やC-C結合形成反応等)を検討していく。C-H結合開裂の際のメカニズムが異なる場合のケイ素の立体電子効果に関しても興味がもたれるため、様々な反応条件を精査する。開発した反応を基盤として、ケイ素含有複素環など合成法の未発達な有用分子の合成法へと展開する。さらに、前年度に見出した不斉反応を続けて検討し触媒的不斉C-Hアミノ化反応を開発する。不斉C-Hアミノ化反応を炭素中心だけでなく、ケイ素中心のキラリティの構築にも展開し、キラルケイ素化合物の触媒的構築法を開発したい。ケイ素は炭素と同じ4本の結合を形成するが、炭素より長い結合距離を有する等似て非なる性質を持つため、炭素では構築できない不斉環境を構築できると予想される。新たなキラルビルディングブロックとしての利用も検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 初年度購入予定と申請していたガスクロマトグラフ用のキャピラリーカラムを次年度購入することとした。前年度はC-H結合アミノ化反応のや不斉反応に関しての検討を主に検討し、ガスクロマトグラフ用のキャピラリーカラムによる分析を必要とするC-H酸化反応に関しては次年度に注力することとした。 (使用計画) 当初の予定通り、ガスクロマトグラフ用のキャピラリーカラムを購入する。前年度にほぼ確立したC-Hアミノ化反応の他に、C-H酸化反応やC-C結合形成反応の生成物の解析にこれを用いる。
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