研究実績の概要 |
本課題では、グルコース飢餓環境選択的にヒト膵臓がん由来株化細胞に対して増殖阻害活性(IC50=0.02 μM : 通常環境での活性の約35500倍)を示すDC1149Bとその類縁天然物(トリコデルマミド類)を迅速かつ網羅的に合成し、構造活性相関研究を通じて生物活性発現に必須な化学構造を解明することを目的として研究を遂行した。その結果以下の成果を挙げることができた。 1.超原子価ヨウ素試薬を用いたチロシン誘導体の酸化的脱芳香環化と分子内oxy-Michael付加反応を経る、立体選択的な新規cis-1,2-オキサザデカリン骨格構築法を開発した。既存の合成法を用いた光学活性な類似骨格の構築には、20工程近くを要していたが、本合成はチロシンエステルから8工程で望みの骨格構築を可能にする手法である。 2.前述のチロシン誘導体の酸化的脱芳香環化において、化学選択制の高い一重項酸素を酸化剤として用いると、酸化反応に続いて目的とする分子内oxy-Michael付加反応が一挙に進行することを見出した。さらに、本変換反応を気液二層系のフロー合成に展開することで、チロシンエステルから僅か5工程で所望の光学活性な1,2-オキサザデカリン骨格を効率的に合成することに成功した。 3.最終年度は独自に開発した一重項酸素を用いた1,2-オキサザデカリン骨格構築法を基盤として、DC1149Bとその類縁天然物の合成研究に取り組んだ。その結果、トリコデルマミドBおよびCの形式不斉合成、ならびにトリコデルマミドD、EおよびFの初の不斉合成を達成した。また、構造活性相関研究においては、現在のところDC1149Bが有するグルコース飢餓環境選択的な生物活性発現には、特異な7員環エピジチオジケトピペラジン骨格の必要性を示唆する結果を得ている。
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