一酸化窒素(NO)は生体内で様々なシグナルに関与していることが知られており、その供与化合物(NOドナー)はNOの作用を解明するためのツールや新たな医薬品として期待できる。本研究計画において、申請者は生体環境でのより精緻なNOの制御を可能にするために、これまでの知見を基に、光と酵素の2段階で制御可能なNOドナーと、更なる生体深部での制御を可能にするために赤色-近赤外光で制御可能なNOドナーの合成を行った。 前年度までに、NO-Rosa5の構造を基にして酵素と光の2段階で制御可能なNOドナーであるNO-Rosa-Galを開発し、細胞系においてNO放出の酵素と光の2段階制御が可能であることを確認した。それらの知見を基に、さらに長波長の光と酵素で制御可能なNOドナーを開発するために、赤色光制御NOドナーにガラクトースをグリコシド結合させた化合物を合成し、機能評価を行った。しかし、この化合物はβ-ガラクトシダーゼによって加水分解されるものの、酵素反応後に光照射を行ってもNO放出が確認されなかった。これは酵素反応後、生じたNOドナーが酵素に吸着してしまったためだと考えられ、今後はより極性の高い誘導体を合成していく。 また近赤外光で制御可能なNOドナーを開発するために、アンテナ部位を700 nm以上の光を吸収するような構造に変換した化合物を合成した。今後はこの化合物の誘導体化と構造活性相関、さらには近赤外光での制御の利点を活かしたin vivoへの応用を行っていく。
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