研究実績の概要 |
タンパク質-タンパク質間相互作用(PPI)は多様な生命現象に関与する重要な過程であり、新しい創薬標的としても注目されている。PPI阻害剤を探索・設計するための戦略として、フラグメントベース創薬(FBDD)がある。本研究課題では、申請者らの研究室で開発した計算手法であるインシリコ・フラグメントマッピング法を応用し、PPIを標的とした新しい計算機的FBDD手法を確立することを目的とした。 はじめに、リガンドとの複合体構造が報告されているSTAT3, Interleukin-2およびBcl-xLに対してインシリコ・フラグメントマッピングを行った。得られたフラグメントを複合体構造中のリガンドと比較したところ、同一または類似した部分構造が多く見られた。したがって、本手法を用いることでPPI界面に結合するフラグメントを正しく同定できると結論した。また、得られたフラグメントの中には、対応するリガンドとは構造や性質が大きく異なるものも存在した。これらフラグメントを利用することにより、既知リガンドとは異なる分子骨格を有する阻害剤も設計可能となる。 次に、実際の応用例として、Rac1-GEF間相互作用、USP7-HDM2(いずれも抗癌剤標的)、インフルエンザRNAポリメラーゼのサブユニット間相互作用(抗インフルエンザ薬標的)などのPPI阻害剤を探索した。その結果、いずれも既知阻害剤と比較すると阻害活性はやや劣るものの、リード化合物となりうる活性化合物を同定することに成功した。 以上の結果により、PPI阻害剤探索に用いる計算機的FBDD手法としてのインシリコ・フラグメントマッピング法の有効性を実証することに成功した。今後は、これらリード化合物に基づく化合物探索・設計を進める。また、他の類似手法との性能比較を行い、本手法の有効性の更なる検証や特徴抽出を行う予定である。
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