研究課題/領域番号 |
18K14883
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日比野 絵美 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特任助教 (00803371)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ILEI / FAM3C / 溶液NMR / γセクレターゼ / 構造―機能連関 / プレセニリン-1 / タンパク質間相互作用 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病はアミロイドβタンパク質 (Aβ) の脳内蓄積が原因とされている。分泌タンパク質ILEIはγセクレターゼの構成分子の一つであるプレセニリン-1へ結合することでAβおよびAβの前駆体であるAPP-CTFの産生を抑制することが報告されている。加えて、ILEIはγセクレターゼに結合するものの、γセクレターゼの活性自体には影響を与えないことから、新規のメカニズムによる機能であることもわかっているが、詳細なメカニズムは未解明のままである。本研究の目的は、ILEIのAβ産生抑制機能に関わる構造―機能連関を明らかにし、アルツハイマー病治療薬の開発へつなげることである。 培養細胞を用いたアラニンスキャニングの系により、ILEIの機能に関与する残基を特定する計画としていた。そこで実際にアラニンスキャニングを実施し、機能を喪失するアラニン変異体を得ることができた。しかし、NMR解析の結果、その変異体はfold-unfoldの平衡にあることが判明した。そこで研究の方針を、タンパク質の構造解析により結合に関与する残基を特定してから培養細胞の系で確認することに切り替えた。溶液NMR解析により、これまで明確に示せていなかったILEIとγセクレターゼの直接結合が確認できた。またγセクレターゼ側の候補構造を、ドッキングシミュレーションにより算出した。その構造の妥当性を検証するため、まずILEIの3次元NMR測定を行い、帰属することでILEI側のγセクレターゼとの結合部位を明らかにする。くわえて、既に構築した培養細胞でのILEIの機能評価系により、裏付ける。本研究は、アルツハイマー病の治療・予防薬のStructure-Based Drug Design (SBDD) の土台につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、ILEIのAβ産生抑制機能を培養細胞を用いて評価するアラニンスキャニング系を構築した。その評価系を用いて機能に重要なアミノ酸残基の同定を試みた。候補残基が得られたため、アラニン変異体のNMRスペクトルを取得したところ、野生型の構造が保たれていなかったことが判明した。このことから、培養細胞からのアプローチでは不十分であることが判明した。そこでタンパク質構造からのアプローチを先に取ることとした。まずドッキングシミュレーションによりILEIとγセクレターゼ複合体構造の候補が複数挙げられた。この中からもっとも妥当な構造を得るために、ILEI側の複合体形成に重要な残基をNMR解析により明らかにすることとした。これまで確認できていなかったILEIとγセクレターゼの直接結合が示せ、γセクレターぜ複合体形成に関与するピークが複数得られたため、ILEIの3次元NMR測定を実施し、残基を特定するところである。 培養細胞系で機能に重要なアミノ酸残基を同定する予定であったが、その点に関しては予定通り進行しなかった。一方で、これまでILEIの変異導入による構造不安定性は示唆されていたものの、実態については不明であった。今回の結果から、変性状態とフォールド状態の平衡にあることが判明した。当初の計画どおりには進展しなかったもののそれに伴い新たな知見が得られ、計画の方針を切り替えてからは順調に進行しているため、総合して概ね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
ドッキングシミュレーションで得られた複合体構造を、NMR解析と培養細胞の実験でもっとも妥当な構造を特定する。その結果、アルツハイマー病の治療・予防薬のStructure-Based Drug Design(SBDD)の土台につながる。今後は、この複合体構造を基に、ドラッグデザインへ展開していきたいと考えている。また、本研究成果に関し論文化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響、また異動の関係で、本研究を論文化するに至らなかった。論文化を完遂させるため、次年度での使用を要求することとした。
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