研究実績の概要 |
脂質アルデヒドは、タンパク質の化学修飾や炎症反応を引き起こし、様々な疾患発症に関与することから、新たな疾患バイオマーカーとして期待される。しかしながら、複雑かつ多彩な反応機構を経て生成するため、その構造情報が不足しており、未だ適切な解析法が確立していない。一方で近年申請者は、様々な脂質アルデヒドの高反応性前駆物質である「脂質ラジカル」の構造解析法を提案した (Matsuoka, Y. et al. Anal. Chem. 2020)。さらに、観測されたラジカル中間体構造情報より、脂質過酸化反応にて生成する膨大な脂質アルデヒドの構造推測が行える可能性を見出した。 前年度までに申請者は、リン脂質の一種であるホスファチジルコリンより生じるラジカル種を包括的に解析、さらに同時に生成する脂質アルデヒドの構造推測および解析を実施した。その結果、計百種類を超える脂質アルデヒド化合物の構造推定した。 そこで本年度は、前年度までの研究成果をもとにアルデヒドデータベースの構築し、低密度リポタンパク質(Low-density lipoprotein; LDL)由来アルデヒド化合物の解析を行った。その結果、PCもしくはLDL内中性脂肪の一種であるCholesteryl esterより生じた種々のアルデヒド化合物を観測した。さらに、各酸化物に相当する質量電荷比のMSピーク面積はLDL溶液へ酸化反応開始剤を添加することで顕著に増加した。さらに疾患モデル動物 LDL中にて生成する酸化アルデヒドの解析にも成功した。こうして観測された脂質アルデヒド類は、酸化ストレス疾患の新たな疾患バイオマーカー候補分子として期待される。
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