研究課題/領域番号 |
18K14887
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
早川 大地 昭和大学, 薬学部, 助教 (20761141)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子相互作用場 / 構造活性相関 / インシリコ装薬 / ハロゲン結合 / 弱い水素結合 / 非典型非共有結合 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
分子相互作用場(Molecular interaction field: MIF)は、対象とする化合物の周囲に形成される相互作用を記述する三次元的なポテンシャルマップである。MIF は定量的構造活性相関モデルを構築する際の記述子やタンパク質の薬物結合部位の予測等に用いられており、インシリコ創薬における重要な概念の一つである。また、タンパク質と薬物候補化合物の間に形成される分子間相互作用の評価は、構造ベースの薬物設計において重要で、特に水素結合やイオン結合などは議論の中心である。これらの典型的な分子間相互作用に加え、ハロゲン結合、CH/π相互作用、CH/n相互作用といった様々な分子間相互作用が知られており、創薬におけるこれらの重要性が近年高まっている。本研究では、これらの相互作用を水素結合やイオン結合などの典型的な非共有結合に対して、"非典型非共有結合"と呼んでいる。非典型非共有結合を適切に記述するMIFが得られれば、これらの相互作用を活用した医薬品分子のインシリコ設計が可能になると期待できる。非典型非共有結合はいずれも従来の古典的手法による扱いが難しく、量子化学に基づいたMIFの評価が最善である。しかしながら、その様な計算法はこれまでに報告されていない。本研究では、非典型非共有結合を記述可能な、量子化学計算とプローブ分子を用いたMIF計算法を考案し、構造活性相関への応用可能性を検証した。2年目の成果として、これまでの成果を学術論文として査読付きの国際誌にて発表した。また、より多数のタンパク質/リガンド系に適用できる様に、必要な領域のみをサンプリングする「部分的MIF」を考案した。加えて、他の方法で得られたタンパク質/リガンド複合体構造に基づいて、タンパク質-リガンド相互作用を量子化学レベルで見積もる方法を考案し、必要なコンピュータプログラムを完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本手法では、対象化合物の周囲にプローブ分子を配置し、量子化学計算によって化合物-プローブ間の相互作用エネルギーを計算する事で、MIFを作成する。この方法において、量子化学計算自体は既存プログラムを用いて実施できるが、プローブ分子を配置したり、計算結果を集計するプログラムは存在しないため、昨年度はこれを実施するためのコンピュータプログラムをFortran言語によって作成した。また代表者(早川)は、別の研究課題において、タンパク質構造を特性球表示(いわゆる粗視化)し類似性を評価するためのプログラムを作成した。この手法を改良し、本研究において確立したMIF計算法と組み合わせる事で、タンパク質/リガンド間の相互作用エネルギーを算出する方法を考案した。本年度は、これらをCasein Kinase 2/阻害剤系に対して実施した結果について、学術論文として査読付きの国際専門雑誌にて報告した。更に、複数の酵素/阻害剤系に適用することで、本手法の検証とリファインを行った。研究を始めてすぐに、より多数の系に適用するには、更に計算を効率化することが必要であることがわかった。そこで、算出するMIFのうち、必要な領域のみをサンプリングする「部分的MIF」を考案した。これによって計算時間の短縮が期待できる。加えて、他の方法で得られたタンパク質/リガンド複合体構造が活用できる場合には、プローブ分子の配置や配向を複合体構造に基づいて決定でき、計算量を大幅に削減できることに気づいた。そこでこの発想に基づき、タンパク質-リガンド相互作用を量子化学レベルで見積もるためのプログラムを作成した。当初は予定していなかったプログラムの作成を伴ったが、結果的に多数のタンパク質/リガンド系に対応することが可能となった。以上の様に、方法の検証とリファインを順調に進めることができたので、上記の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在までの検討に引き続き、これまでに作成したコンピュータプログラムを用いて、複数のタンパク質/阻害剤系に本手法を適用し、その汎用性の検証と、計算方法のリファインを実施する。最近、他の研究グループによって、フラグメント分子軌道法(FMO)により算出したタンパク質/リガンド複合体構造の電子状態に関する情報を収載した、FMO-DBが公開された。このデータベースには、複数のタンパク質/阻害剤系について算出した、タンパク質/リガンド相互作用エネルギーが収載されている。本研究で考案した手法は、FMOとは大きく異なる発想に基づいており、目的意識も大きく異なるが、同一の系に対して算出される物理量(すなわち分子間相互作用エネルギー)は両者で一致すべきものである。したがって、本手法で算出されたタンパク質/リガンド相互作用エネルギーを客観的に評価するために、FMOによる計算値との比較を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行等により、参加を計画していた日本薬学会第140年会が誌上発表に変更になった。これによって当初使う予定であった交通費・宿泊費が残った。次年度以降の学会参加費や論文掲載費などとして別途有効活用する予定である。
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