研究課題/領域番号 |
18K14887
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
早川 大地 昭和大学, 薬学部, 講師 (20761141)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / ポテンシャル関数 / 分子力学 / インシリコ創薬 / ハロゲン結合 / 非典型非共有結合 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
本年度初頭は、昨年度までに考案した計算方法と作成したコンピュータプログラムの汎用性の検証と、リファインを実施した。最近、他の研究グループによって、フラグメント分子軌道法(FMO)により算出したタンパク質/リガンド複合体構造の電子状態に関する情報を収載した、FMO-DBが公開された。そこで、本手法で算出されたタンパク質/リガンド相互作用エネルギーを客観的に評価するために、FMO-DBに収載されたタンパク質リガンド相互作用エネルギーと本手法により算出したエネルギー値との比較を実施した。CHK1キナーゼ/リガンド系では、FMOと本研究において考案した手法とでエネルギー値がよく一致する事が確認できた。 本年度始まってすぐに、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う緊急事態宣言によって東京都はロックダウン状態になり、申請者も在宅勤務となった。不運なことに代表者の所属大学では、大学内のネットワークに外部から接続する事ができない状態になっており、当初予定していた学内のワークステーションを用いた計算が実施不可能となった。これは研究計画段階では予測できなかった事態である。そこで代表者は、「量子化学計算を活用し、非典型非共有結合を考慮した分子設計を可能とする手法の開発」という本研究の最終的な目標を変更することなく、在宅でも可能な研究を実施するように軌道修正を検討した。代表者は、各原子上に定義した点電荷によって原子間静電相互作用を記述する従来のポテンシャル関数の欠点を改善するために、電子分布を明示的に記述する新しい分子モデルを考案した。本手法では、原子・分子の電子分布をガウス関数の線形結合の二乗によって明示的に記述し、この電子分布を用いて、静電項と交換斥力項を算出する。なお、電子分布は量子化学計算に基づいて決定する。本分子モデルによって、分子間ハロゲン結合が適切に記述できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の初頭は、昨年度の研究計画の通り、FMO-DBを活用し、本手法の妥当性の検証を実施した。ここまでは、当初の計画通りの研究内容の実施であった。本年度の途中より、感染症の流行に伴い、当初の計画を修正して研究を進めた。当初予定していなかった計算手法の考案とコンピュータプログラムの作成を伴ったが、この新しい手法によって非典型非共有結合の一つであるハロゲン結合の評価が可能であることが確認できた。「非典型非共有結合の評価」は、本研究の重要な要素である。この新しい分子モデルは、量子化学計算により決定される電荷分布を活用して構築され、非典型非共有結合を記述できる。さらに、分子相互作用場の計算への応用も十分期待でき、量子化学計算の直接の適用が難しい巨大分子系や大規模なスクリーニング系においても高速計算が可能であると期待される。以上より、本研究課題の成果として十分であると考えている。以上を踏まえ、本年度の進捗状況として、上述の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
感染症の流行は、本研究の遂行に大きな悪影響を与えた。しかし、その一方で、新たな分子モデル考案のきっかけとなった。この新しい分子モデルは、非典型非共有結合を評価でき、量子化学計算の直接の適用が難しい巨大分子系や大規模なスクリーニング系においても高速計算が可能であると期待される。当初の計画にはない検討内容ではあるが、本研究の目的を達成するために、残りの研究期間と研究費を投入して、本分子モデルのより進んだ検討を是非とも実施すべきであると考えている。本分子モデルでは、量子化学計算に基づいて、電荷分布を算出するが、そのfitting protocolは、十分に確立できていない。そこで、次年度は、このfitting protocolの改良に第一に取り組みたい。まずは、単純な低分子系で実施し、順次複雑な化合物系へ適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の流行等により、参加を計画していた学会への参加を見送るなど、当初使う予定であった予算が残った。また、本研究の目標達成のため、本年度考案した分子モデルについてのより進んだ検討を是非実施したいと考えている。そこで、研究期間を延長し、残りの研究費を投入して、追加の検討・検証を進めたい。研究費の用途としては、消耗品の購入、学会参加費や論文掲載費などを計画している。
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