本年度は、量子化学計算に基づいた、電子分布を明示的に記述する分子モデル(Distributed electron charge model: DEC model)に関する研究を実施した。本手法は、分子力場関数の一種と言える。本モデルは、ハロゲン結合や弱い水素結合などの非典型分子間相互作用も記述でき、分子相互作用場(molecular interaction field: MIF)の高速計算に応用できると期待される。本年度は、本手法を確立するために不可欠である、分子モデルの高速な構築を可能とする密度フィッティング法に基づいた方法を考案した。また、DECモデルにおいて、分子間の交換斥力項と分極項は、分子間の電子密度の重なりSの一次関数として近似するものとした。その比例定数Kは、エネルギー分割法により求めた各エネルギー項と、DECモデルにより算出されるSの間の単回帰分析によりそれぞれ求める。H2O/Br2系で実施したところ、DECモデルは、CCSD(T)/aug-cc-pVQZレベルによる相互作用エネルギーを良好に再現し、全相互作用エネルギーに対する各項からの寄与も精度よく再現した。現段階では、DECモデルを多様な分子系に適用するためには、その構築方法をさらに発展させる必要がある。しかしながら、本研究を通して、その基盤が確立された。昨年度までに確立した、量子化学計算単独で実施するMIF計算に加え、本年度考案したDECモデルも活用することで、ハロゲン結合や弱い水素結合などの非典型分子間相互作用も記述できるMIFのより高速な評価が可能となり、構造活性相関やインシリコ創薬における有効活用が期待される。
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